減資とは?資本金を減らしても会社の現金が減らない理由
減資の仕組みを無償減資と有償減資に分け、欠損填補、会計処理、株数・EPS・配当への影響、株主総会と債権者保護、税務上の注意点まで解説します。
目次12項目
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「資本金を99%減らす」「資本金を1億円以下にする」という発表を見ると、会社のお金がほとんどなくなるように感じるかもしれません。しかし、減資の多くは、貸借対照表の純資産の中で資本金を別の項目へ移す手続です。現金が株主へ払い戻されない無償減資なら、減資だけを理由に会社の現金、利益、発行済株式数が減るわけではありません。
一方、株主へ金銭を交付する有償減資では、会社の現金と純資産が社外へ出ます。また、減資と同時に株式併合、増資、自己株式の消却などが行われる場合は、それぞれの影響を分けなければなりません。「減資」という言葉だけで良い材料、悪い材料と決めず、何を減らし、どこへ振り替え、現金と株式に何が起きるのかを読むことが大切です。
| 最初に確認する点 | 無償減資の典型例 | 有償減資の典型例 |
|---|---|---|
| 株主への金銭交付 | なし | あり |
| 会社の現金 | 原則として変わらない | 交付額などに応じて減る |
| 純資産合計 | 原則として変わらない | 原則として減る |
| 資本金 | 減る | 減る |
| 発行済株式数 | 減資だけでは変わらない | 減資だけでは変わらない |
| 典型的な目的 | 欠損填補、資本構成の整理 | 株主への資本の払戻し |
以下では、日本の株式会社、とくに上場会社の減資を中心に解説します。決算書の項目に不慣れな方は、先に決算書の読み方を確認すると、資本金、資本剰余金、利益剰余金の関係を追いやすくなります。
減資とは?無償減資と有償減資を分ける
減資とは、会社法上の「資本金の額」を減少させることです。会社法447条では、原則として株主総会の決議により、減少する資本金の額、減少額の全部または一部を準備金とする場合はその額、効力発生日を定めるとされています。減らせる額は、効力発生日の資本金額を超えられません。
ここでいう資本金は、会社が保有する預金口座そのものではありません。貸借対照表の純資産に表示される法的・会計的な区分です。会社設立や増資で払い込まれたお金は事業に使われ、設備、在庫、売掛金、預金など様々な資産へ形を変えています。そのため、帳簿上の資本金を減らすことと、同額の現金を金庫から取り出すことは同じではありません。
東京証券取引所の用語集では、減資のうち、出資額の一部を株主へ払い戻すものを有償減資、株主への払戻しを伴わないものを無償減資と説明しています。実務で「減資」と発表される案件には、次の二つがあります。
- 無償減資:資本金をその他資本剰余金などへ振り替えます。会社から株主への金銭交付を伴いません。
- 有償減資:資本の払戻しとして株主へ金銭などを交付します。現在の会社法では、資本金の減少と剰余金の配当という複数の手続を組み合わせる形が一般的です。
ニュースの見出しだけでは、どちらなのか分からないことがあります。適時開示の「減資の目的」「減少する資本金の額」「減資の方法」「剰余金の処分」「株主への払戻しの有無」を読み、現金交付があるかを確かめます。
また、「100%減資」という表現にも注意が必要です。資本金の額をゼロにする減資と、既存株式を全部消滅させることは別です。株式併合、全部取得条項付種類株式、株式の消却などが併記されていなければ、資本金を100%減らしたというだけで、保有株数や議決権がゼロになるとは限りません。
会計処理を数字で理解する
まず、株主への払戻しがない無償減資を、単純化した貸借対照表で考えます。減資前の純資産が次の状態だったとします。
| 純資産の項目 | 減資前 | 操作 | 減資直後 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 1,000億円 | 900億円減少 | 100億円 |
| その他資本剰余金 | 0億円 | 900億円増加 | 900億円 |
| 利益剰余金 | 200億円 | 変化なし | 200億円 |
| 純資産合計 | 1,200億円 | 増減なし | 1,200億円 |
企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」では、資本金や資本準備金を減少して生じた剰余金は、法的効力が発生したときにその他資本剰余金として計上します。この例では、資本金から900億円が消えて会社の外へ出たのではなく、同じ株主資本の中のその他資本剰余金へ移っています。
この振替だけなら、貸借対照表の資産、負債、純資産合計は変わりません。損益計算書の売上高、営業利益、当期純利益にも入りません。キャッシュ・フロー計算書にも資金移動は現れません。登記や公告などの費用が発生することはありますが、減資額そのものが損失や現金流出になるわけではありません。
次に、利益剰余金がマイナス600億円の会社を考えます。会社が資本金900億円を減らしてその他資本剰余金へ振り替え、そのうち600億円を利益剰余金へ振り替えて欠損を埋める場合、概念的には次の順番です。
| 純資産の項目 | 実施前 | 資本金の減少後 | 欠損填補後 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 1,000億円 | 100億円 | 100億円 |
| その他資本剰余金 | 0億円 | 900億円 | 300億円 |
| 利益剰余金 | ▲600億円 | ▲600億円 | 0億円 |
| 純資産合計 | 400億円 | 400億円 | 400億円 |
資本金の減少で生じたその他資本剰余金を利益剰余金へ移して欠損を填補するには、会社法452条に基づく剰余金の処分も必要です。資本金と利益剰余金が直接相殺されると考えるより、「資本金からその他資本剰余金へ移す」「その他資本剰余金から利益剰余金へ移す」という二段階で見ると理解しやすくなります。
重要なのは、最終列でも純資産合計が400億円のままだという点です。累積損失という表示は消えますが、過去の損失が取り戻されたわけではなく、新しい利益や現金が生まれたわけでもありません。見た目が整っても、事業の収益力や財務余力は別に検証する必要があります。
企業が減資する目的と欠損填補・配当の関係
無償減資の目的として多いのが、欠損填補、資本政策の柔軟化、税務・制度上の区分の見直しです。同じ減資でも目的によって評価が違うため、会社の説明を次のように分解します。
欠損を填補して貸借対照表を整理する
赤字が続くと利益剰余金がマイナスになり、貸借対照表には繰越利益剰余金の欠損が残ります。無償減資で生じたその他資本剰余金を使って欠損を填補すれば、利益剰余金のマイナスを解消できます。ルネサスエレクトロニクスが公表した過去の事例でも、資本金と資本準備金の減少で生じるその他資本剰余金を、繰越利益剰余金へ振り替えて欠損を填補する手順が示されています。
欠損填補には、過去の損失を整理し、将来の資本政策を実行しやすくする意味があります。ただし、赤字の原因が解消された証拠ではありません。営業損失が続いているなら、減資後も再び利益剰余金が減る可能性があります。
将来の配当を実施しやすい形にする
配当は「資本金が大きいから出せる」のではなく、会社法上の分配可能額の範囲で行います。欠損が残っている会社は、利益を稼いでもその欠損を埋めるまで配当余力を作りにくいことがあります。減資と欠損填補により純資産の内訳を整理すると、今後の利益やその他資本剰余金を原資とした配当を検討しやすくなる場合があります。
しかし、「減資したから復配できる」「減資額と同額を配当できる」とは限りません。会社法461条の分配可能額、債権者保護、手元資金、借入契約、今後の投資負担などが制約になります。配当方針を読むときは、減配リスクの見分け方で扱う利益、営業キャッシュフロー、財務の持続性も合わせて確認します。
法令や税制で使われる会社規模の区分を見直す
税制や会社法の一部には、資本金額を会社規模の判定に使う制度があります。そのため、資本金を一定額以下にすることが減資目的に挙げられる場合があります。ただし、制度ごとに判定基準は異なり、資本金だけでなく資本剰余金、株主構成、親会社の規模、負債総額などを見る制度もあります。「資本金を1億円以下にすれば中小企業になり、すべての税負担が軽くなる」という理解は正確ではありません。
資本の払戻しを行う
事業規模に対して資本が過大で、余剰資金を株主へ返す場合は、有償減資が選ばれることがあります。この場合は単なる帳簿上の振替ではなく、金銭などが株主へ交付されます。無償減資とは会社の財産と株主の税務への影響が大きく異なります。
株主総会・債権者保護・登記までの手続
減資は、取締役会が発表すればすぐ完了するものではありません。上場会社の一般的な流れは次のとおりです。会社の機関設計や同時に行う取引によって細部は変わるため、各社の適時開示と株主総会招集通知を確認します。
| 段階 | 主な内容 | 投資家が見る資料 |
|---|---|---|
| 1. 方針決定 | 目的、減少額、振替先、効力発生日を決める | 適時開示資料 |
| 2. 株主総会 | 原則として特別決議で承認する | 招集通知、決議結果 |
| 3. 債権者保護 | 官報公告などを行い、債権者の異議申述を受ける | 官報、会社公告 |
| 4. 効力発生 | 決議した日に資本金の減少が効力を生じる | 適時開示、登記情報 |
| 5. 決算反映 | 株主資本等変動計算書などに表示する | 決算短信、有価証券報告書 |
会社法309条2項9号により、資本金の額の減少は原則として株主総会の特別決議が必要です。特別決議は、定款で一定の変更ができるものの、原則として議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で決します。
例外として、定時株主総会で減資し、減少額が欠損額を超えない場合は、普通決議で足りる扱いがあります。また、株式発行と同時に減資し、効力発生日後の資本金が実施前を下回らない場合には、取締役または取締役会が決められる例外もあります。したがって、「減資は必ず特別決議」とだけ覚えるのも不正確です。
会社法449条は、資本金の減少時に債権者が異議を述べられる手続を定めています。会社は、資本金を減らす内容と、一定期間内に異議を述べられることを官報で公告し、原則として知れている債権者へ個別に催告します。異議申述期間は1か月未満にできません。定款所定の公告方法による追加公告を行うことで、個別催告を省略できる場合もあります。
債権者が期間内に異議を述べた場合、減資によってその債権者を害するおそれがないときを除き、会社は弁済、相当の担保の提供、信託などの措置を取ります。資本金は債権者にとって法的な基準となるため、株主だけの決議で自由に減らせない仕組みです。
東証のFAQでは、資本金の額の減少は軽微基準のない適時開示項目とされています。上場会社は決定後、直ちに開示する必要があります。開示では、目的、減少額、方法、日程、業績への影響を確認します。株主総会前の発表は「予定」であり、決議、債権者保護手続、効力発生まで完了したかを追うことが大切です。
資本金1億円以下と税金・会社規模の注意点
減資の開示で「税制上のメリット」「外形標準課税の対象外」「中小企業としての扱い」が注目されることがあります。しかし、税制は改正され、制度ごとに定義も違います。投資家は、会社が何の制度を想定しているのかを限定して読む必要があります。
法人税の中小法人判定
国税庁の2025年度税制改正資料では、中小法人は原則として期末の資本金または出資金が1億円以下の普通法人などとされています。ただし、大法人による完全支配関係がある法人などは除外されます。さらに、租税特別措置ごとに適用除外事業者、みなし大企業、従業員数など別の要件が設けられることがあります。
したがって、資本金を100億円から1億円へ減らしたという一事だけで、中小企業向けの軽減税率や優遇措置をすべて利用できるとは判断できません。親会社と大株主、資本金等の額、所得、従業員数、対象年度の制度を個別に確認します。
法人事業税の外形標準課税
外形標準課税は、所得だけでなく付加価値額や資本等の額を課税標準に含む法人事業税の仕組みです。従来、資本金1億円以下への減資が対象外となる方法として注目されましたが、2025年4月1日以後に開始する事業年度から判定が見直されています。
東京都主税局の案内では、前事業年度に外形標準課税の対象だった法人が、資本金1億円以下でも、払込資本の額、すなわち資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える場合は、引き続き対象となる基準が示されています。欠損填補によって払込資本が10億円以下となる場合など、適用関係には細かな条件があります。
さらに、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、資本金と資本剰余金の合計が50億円を超える法人などの100%子法人について、資本金1億円以下でも対象となる追加基準があります。減資発表を「外形標準課税を必ず回避できる」と評価するのは危険です。会社の税効果の説明と、改正後の適用判定を確認します。
会社法上の大会社
会社法2条6号の「大会社」は、資本金が5億円以上、または最終事業年度の貸借対照表で負債の部の合計額が200億円以上の株式会社です。資本金を5億円未満へ減らしても、負債総額が200億円以上なら大会社に該当します。大会社には会計監査人の設置など会社法上の規律があるため、ここでも資本金だけを見てはいけません。
税務や法令上の効果は企業ごとに異なります。本記事は投資判断のための制度理解であり、個別企業や株主の税額を計算するものではありません。最新年度の法令、自治体の案内、会社開示を確認することが前提です。
株数・EPS・BPS・ROE・配当への影響
減資で最も誤解されやすいのが、一株当たり指標への影響です。無償減資だけを実施し、株式併合、増資、自己株式取得、配当などを同時に行わないなら、発行済株式数、利益、純資産合計は原則として変わりません。そのため、減資だけでEPSやBPSが機械的に変化することもありません。
| 指標 | 無償減資だけの場合 | 変わる可能性がある別の取引 |
|---|---|---|
| 発行済株式数 | 変わらない | 株式併合、株式分割、自己株式消却、増資 |
| 持株比率・議決権比率 | 変わらない | 第三者割当増資、特定株主からの自己株取得など |
| EPS | 利益と株式数が同じなら変わらない | 増資、株式併合、事業損益の変化 |
| BPS | 純資産と株式数が同じなら変わらない | 有償減資、配当、増資、損益、株式併合 |
| ROE | 利益と自己資本が同じなら変わらない | 払戻し、損益、自己株買いなど |
| 自己資本比率 | 自己資本合計と総資産が同じなら変わらない | 払戻し、損失、借入、増資など |
| 配当可能性 | 内訳の整理で高まる場合がある | 分配可能額、利益、現金、取締役会・株主総会の判断 |
たとえば、純利益100億円、期中平均株式数1億株、自己資本1,000億円の会社なら、EPSは100円、BPSは1,000円、単純化したROEは10%です。資本金800億円のうち700億円をその他資本剰余金へ振り替えても、純利益、平均株式数、自己資本合計が同じなら、この三つの数値は変わりません。
株式併合を同時に行い、10株を1株にするなら、株式数は10分の1になり、理論上のEPSとBPSは10倍になります。ただし、株主の保有株数も10分の1になり、理論上の株価も10倍になるため、それだけで経済価値が増えたとはいえません。減資と株式併合が一つの開示に書かれていても、株式数の変化は株式併合の効果です。
有償減資で100億円を株主へ払い戻せば、他の条件が同じなら現金と純資産が100億円減り、BPSや自己資本比率が下がる可能性があります。一方、発行済株式数が自動的に減るわけではありません。自己株式取得を伴う場合には株式数が減ることがありますが、それは取得・消却の効果として分けて分析します。
減資の発表後に株価が動くことはあっても、減資額から理論株価を直接計算することはできません。市場は、税負担の変化、将来の復配可能性、累積損失の大きさ、再建計画、同時に発表された増資などをまとめて評価します。ROE・EPS・PER・PBRの見方で各指標の分子と分母へ戻り、実際にどの数字が変わるのかを確認します。
有償減資と株主の税務
有償減資では、会社から株主へ現金などが交付されるため、無償減資とは税務も異なります。個人株主への資本の払戻しは、受け取った全額を単純な配当、あるいは単純な株式売却代金として扱うとは限りません。
国税庁の所得税基本通達の解説では、資本の払戻しで交付を受けた金銭等は、みなし配当に相当する部分と、株式の譲渡収入とみなされる部分に分けて計算します。概念的には次の関係です。
- 交付額のうち、税法上の計算による利益積立金額に対応する部分は、みなし配当となることがあります。
- 交付額からみなし配当額を除いた部分は、株式の譲渡収入とみなされます。
- 譲渡所得の計算では、保有株式の取得費のうち、純資産減少割合に応じた金額を対応させます。
- 払戻し後も株式を保有する場合、残った株式の取得費も調整されます。
実際の計算には、会社から通知される純資産減少割合、みなし配当額、取得価額、口座区分などが必要です。証券会社の年間取引報告書へ通常の配当と同じ形で反映されないこともあり得ます。会社の税務案内、証券会社の通知を保管し、不明点があれば税務署や税理士へ確認します。
無償減資は株主へ金銭や資産が交付されないため、有償減資と同じ「受取額を二つに分ける」問題は通常生じません。ただし、無償減資と同日に資本剰余金の配当、株式併合による端数処理、株式の取得などが行われれば、その取引ごとの税務が発生します。見出しの「無償減資」だけで判断せず、株主に何が交付されたかを確認します。
株式併合・自己株買い・増資との違い
企業再編や経営再建では、減資と複数の資本政策が同時に発表されます。一つの取引に見えても、株主への効果は別々です。
| 手続 | 主に変わるもの | 株主が注意する点 |
|---|---|---|
| 無償減資 | 資本金と資本剰余金などの内訳 | 現金、純資産合計、株数は原則不変 |
| 有償減資 | 資本金の内訳に加えて現金・純資産 | 払戻額、みなし配当、取得費調整 |
| 資本準備金の減少 | 資本準備金からその他資本剰余金への振替 | 資本金自体は減らないことがある |
| 株式併合 | 発行済株式数と一株当たり数値 | 併合比率、端数株式の処理、上場廃止の有無 |
| 自己株式取得 | 現金と流通株式数 | 取得価格、規模、消却するか、財務余力 |
| 自己株式消却 | 保有する自己株式と発行済株式数 | 消却だけなら現金流出は取得時に済んでいる |
| 公募・第三者割当増資 | 現金、資本金等、株式数 | 希薄化率、発行価格、資金使途、割当先 |
| 資本剰余金の配当 | 現金と資本剰余金 | 普通配当と異なる税務、取得費調整 |
株式併合は、複数株を一株へまとめる手続です。経営再建で大幅な減資と併合が同時に行われると、減資が株数を減らしたように見えますが、法的には別の決議です。併合比率が大きく、少数株主の保有株が一株未満の端数になる場合は、端数処理による金銭交付や上場廃止につながることがあります。
自己株買いは、会社が株主から自社株を買うため、会社の現金が流出します。取得した株式を消却すれば発行済株式数が減ります。無償減資は株主から株式を買わず、株数も減らさないため、一株当たり利益を押し上げる自己株買いとは性質が違います。
増資は、新株発行などで資金を調達し、株式数と純資産を増やす手続です。赤字企業が、既存株主への無償減資、第三者割当増資、株式併合を一体で実施することがあります。この場合、旧株主の持株比率を変える主因は増資と併合です。減資だけを見ず、実施前後の完全希薄化後株式数と大株主構成を比較します。
減資の開示を評価する9項目
減資は、前向きな資本政策にも、過去の巨額損失を整理する再建手続にもなります。名称ではなく、次の9項目を順に確認すると、評価を誤りにくくなります。
1. 無償か有償か
最初に株主への金銭交付の有無を確認します。「資本金の額の減少」だけなら無償減資の可能性が高く、「剰余金の配当」「資本の払戻し」が併記されていれば有償の要素があります。
2. 減らした資本金をどこへ移すか
その他資本剰余金へ振り替えるだけなのか、その後に利益剰余金の欠損を填補するのかを確認します。振替先が書かれていない開示は、株主総会資料や後日の決算で補います。
3. 欠損が生じた理由は解消したか
過去の減損損失や一度限りの事業売却で欠損が生じたのか、本業の赤字が続いているのかで意味が違います。売上高、営業利益、営業キャッシュフロー、継続企業の前提に関する注記を確認します。欠損の表示をゼロにしても、赤字体質は会計上の振替では直りません。
4. 税務目的の説明は具体的か
「税負担の適正化」だけでなく、法人税、法人事業税、外形標準課税など対象制度が示されているかを見ます。改正後の払込資本や完全支配関係の基準に該当しないか、翌年度の実効税率見通しと照合します。
5. 配当方針と現金創出力が一致するか
欠損填補後に復配を目指す会社は、配当可能な会計区分だけでなく、配当を賄う現金を稼げるかが重要です。一時的な資産売却代金だけで配当するのか、継続的なフリーキャッシュフローがあるのかを分けます。
6. 同時に株式数を変える取引がないか
株式併合、第三者割当増資、優先株発行、ストックオプション、自己株式取得を一覧にします。減資後の資本金より、完全希薄化後の株式数と議決権比率の変化が既存株主へ大きく影響する場合があります。
7. 財務制限条項と債権者対応に無理がないか
借入契約に純資産や配当の制限がある場合、減資や払戻しが契約へ影響することがあります。債権者の異議、借換え、担保提供が必要になっていないかを開示で確認します。有償減資なら、実施後の現預金と有利子負債も試算します。
8. 純資産のマイナスは解消するか
東証の上場維持基準では、プライム、スタンダード、グロースのいずれも純資産が正であることが基準です。無償減資は純資産内の振替なので、純資産合計がマイナスの債務超過をそれだけで解消できません。債務超過の会社には、利益回復、債務免除、増資など、純資産合計を増やす別の対策が必要です。
9. 実施後の決算で約束を検証する
効力発生日後の株主資本等変動計算書で、資本金、資本剰余金、利益剰余金が開示どおり動いたかを確認します。税負担軽減や復配を目的としたなら、翌期の法人税等、実効税率、配当、営業キャッシュフローまで追います。発表日の株価反応だけでは政策の成否は判断できません。
減資は事業価値を直接増やす魔法ではありませんが、すべてを悪材料と見る必要もありません。累積損失を透明に整理し、再建計画、財務基盤、株主還元方針を具体的に示す会社なら、将来の資本政策を理解する材料になります。反対に、目的が曖昧で、赤字継続、大幅希薄化、現金流出が重なる場合は慎重な確認が必要です。
まとめ
- 減資は会社法上の資本金額を減らす手続で、預金を同額減らす意味ではありません。
- 無償減資は、資本金をその他資本剰余金へ振り替えるのが典型で、純資産合計、利益、現金、株式数は原則として変わりません。
- 欠損填補では、減資で生じたその他資本剰余金を利益剰余金へ振り替えますが、過去の損失が回復したり現金が増えたりするわけではありません。
- 有償減資では株主へ資本を払い戻すため、会社の現金と純資産、株主の税務へ影響します。
- 減資だけでEPS、BPS、ROE、持株比率が機械的に変わるわけではありません。増資、株式併合、自己株買いなどを分けて見ます。
- 資本金1億円以下でも、税制上の優遇や外形標準課税の対象外が一律に決まるわけではありません。払込資本、親会社、株主構成など制度別の基準があります。
- 上場会社の減資は原則として株主総会決議と債権者保護手続を経ます。東証では軽微基準のない適時開示項目です。
- 評価では、払戻しの有無、振替先、欠損の原因、同時取引、実施後の収益力と現金創出力を確認します。
よくある質問
Q. 減資すると株価は下がりますか?
減資だけを理由に株価が必ず下がるわけではありません。無償減資なら現金、利益、株式数、純資産合計は原則として変わらず、直接的な一株価値の変化はありません。市場は、欠損の原因、税効果、復配の可能性、同時に行う増資や株式併合を含めて評価します。
Q. 100%減資すると保有株はゼロになりますか?
資本金を100%減らすことと、既存株式を消滅させることは別です。減資だけなら、発行済株式数や株主の保有株数は通常変わりません。ただし、株式併合、株式取得、会社更生手続などが同時に行われる場合は、その条件によって既存株主の権利が大きく変わります。
Q. 減資すると配当を出せるようになりますか?
減資と欠損填補で純資産の内訳を整理すると、将来の配当を検討しやすくなる場合があります。しかし、配当は会社法上の分配可能額の範囲内で、現金、利益、財務計画を踏まえて決定されます。減資の実施だけで復配が確定するわけではありません。
Q. 減資と株式併合の違いは何ですか?
減資は資本金の額を減らし、株式併合は複数の株式を一株へまとめる手続です。無償減資だけなら株数は変わりませんが、株式併合では株数と一株当たり指標が併合比率に応じて変わります。同時に発表されても、二つの効果を分けて確認します。
Q. 減資はどの決算書で確認できますか?
貸借対照表で期末の資本金と資本剰余金を確認し、株主資本等変動計算書で期中の振替を追います。適時開示と株主総会招集通知には目的、金額、方法、日程が書かれます。有償減資なら、キャッシュ・フロー計算書と株主向け税務案内も確認します。
参考リンク(出典)
- e-Gov法令検索「会社法」(2条6号、309条、447条、449条、452条、461条など。2026年7月13日確認)
- 東京証券取引所「減資」用語集(有償減資と無償減資の区分。2026年7月13日確認)
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(資本金減少で生じた剰余金の会計処理。2026年7月13日確認)
- 東京証券取引所「資本金の額の減少は、軽微基準のない開示事項とされているのですか」(適時開示の扱い。2026年7月13日確認)
- 東京証券取引所「純資産の額」上場維持基準(各市場区分の基準。2026年7月13日確認)
- 国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」(中小法人の範囲など。2026年7月13日確認)
- 東京都主税局「外形標準課税に関するQ&A」(2025年度・2026年度からの対象法人見直し。2026年7月13日確認)
- 国税庁「資本の払戻しがあった場合の株式等に係る譲渡所得等」(みなし配当、譲渡収入、取得価額の計算。2026年7月13日確認)
- 国税庁「株式等の取得価額」(取得価額の基本。2026年7月13日確認)
- ルネサスエレクトロニクス「資本金及び資本準備金の額の減少並びに剰余金の処分に関するお知らせ」(欠損填補の企業開示例。2026年7月13日確認)
- 東京証券取引所「適時開示に関する情報」(適時開示制度とガイドブック。2026年7月13日確認)
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