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ROICとは?計算方法・ROEとの違い・WACCを上回る意味

ROIC(投下資本利益率)の計算方法を、NOPATと投下資本の作り方から解説。ROE・ROAとの違い、WACCとの比較、のれん・余剰現金・リースの注意点も整理します。

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決算・財務分析第3回/全8回
目次12項目
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ROIC(ロイック)とは、会社が事業へ投じた資本を使い、税引後の事業利益をどれだけ生み出したかを見る投下資本利益率です。一般的には「NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本」で計算し、資金提供者が求める収益率であるWACCと比較します。

 ただし、ROICは会計基準で一つの計算式に統一された指標ではありません。分子に税引後営業利益ではなく当期純利益を使う会社、分母から現金を引く会社、のれんやリース負債を独自に調整する会社もあります。会社が公表したROICをそのまま横並びにせず、分子・分母・平均期間をそろえることが大切です。

最初に押さえる点内容
基本式ROIC=NOPAT÷期中平均投下資本
NOPAT金利負担の前に事業が稼いだ利益を税引後へ直したもの
投下資本株主と債権者から調達し、事業へ投じている資本
主な比較対象WACC(株主資本と負債を合わせた資本コスト)
重要な注意会社ごとに計算定義が違うため、同じ式へ組み替えて比較する

 ROICを理解するには、損益計算書と貸借対照表をつなぐ必要があります。各項目の位置が分からない場合は、先に決算書の読み方を確認すると計算を追いやすくなります。

ROICとは?投じた資本の収益力を見る指標

 ROICはReturn on Invested Capitalの略で、日本語では投下資本利益率と呼ばれます。売上高や利益額が大きいかではなく、その利益を生み出すためにどれだけの資本を使ったかまで含めて評価する指標です。

 たとえば、同じ100億円の税引後事業利益を稼ぐ二社があるとします。一社は工場、在庫、売掛金などに1,000億円を投じ、もう一社は2,000億円を投じているなら、単純化したROICは前者10%、後者5%です。利益額は同じでも、前者の方が少ない資本で同じ利益を生み出しています。

 東京証券取引所は、2023年からプライム市場とスタンダード市場の上場会社へ「資本コストや株価を意識した経営」を要請しています。その資料では、資本収益性をWACCと比べる際の指標例としてROIC、株主資本コストと比べる際の指標例としてROEを挙げています。2026年4月のアップデートでは、収益性・資本効率の目標だけでなく、成長投資、M&A、株主還元、手元資金を含む経営資源の配分を明確にすることが重視されました。

 ただし、東証はROICの採用や特定の算式を一律に求めていません。ROICは法定の財務諸表に必ず表示される会計指標でもありません。統合報告書、中期経営計画、決算説明資料などで会社が任意に算出するため、次の違いが生じます。

  • 分子を税引後営業利益、事業利益、当期純利益のどれにするか
  • 税率に実効税率、法定実効税率、標準税率のどれを使うか
  • 投下資本を「株主資本+有利子負債」で作るか、事業用資産から作るか
  • 現預金、政策保有株式、のれん、リース負債を含めるか
  • 期末残高、期首期末平均、四半期平均のどれを使うか

 実際、味の素の2026年版IRデータブックは、税引後営業利益を期中平均投下資本で割り、投下資本を親会社所有者帰属持分と有利子負債の合計としています。一方、東証に掲載された企業開示には、営業利益を期首・期末平均の事業投下資本で割る「税引前ROIC」を使う例もあります。同じ「ROIC」という名称でも、分子と税引前・税引後の条件が違う実例です。

 会社が示すROICは、その会社の経営管理目標を読むには有用です。しかし、他社比較では必ず注記の計算式を確認し、自分で同じ定義へ直します。

分子のNOPATを計算する

 ROICの標準的な分子は、NOPAT(Net Operating Profit After Tax)です。日本語では税引後営業利益などと訳されます。会社が株主資本と借入金のどちらで資金調達したかに左右されにくい、事業そのものの税引後利益を作る考え方です。

 簡便的には次の式を使います。

NOPAT=営業利益×(1-想定税率)

 営業利益が300億円、想定税率が30%なら、NOPATは210億円です。

300億円×(1-30%)=210億円

 営業利益から始める理由は、支払利息を差し引く前の利益を使うためです。借入金が多い会社は支払利息が増え、当期純利益が小さくなりやすい一方、借入金を使わない会社は利息負担がありません。資本構成の違いをいったん外し、事業に投じた株主資本と有利子負債の両方に対する収益力を見るのがNOPAT型ROICです。

 税金は実際の法人税等をそのまま使うとは限りません。当期の税負担には、過年度税金、繰延税金資産の取崩し、税額控除、海外子会社の税率差、欠損金などが入り、単年度だけ大きく変動することがあります。企業間比較では、法定実効税率や複数年の平常的な税率を使い、継続的な事業利益へ対応する税負担を見積もる方法があります。

 反対に、会社が経営管理用に「税引前ROIC」を開示することもあります。その場合は営業利益を税引後へ直さず、税引前の資本コストと比べるなど、分子と比較対象の条件をそろえなければなりません。税引前ROICを税引後WACCと直接比較すると、ROIC側が高く見えます。

一時損益は目的に応じて調整する

 構造改革費用、減損損失、事業売却損益などをNOPATから除くかは、分析目的で決まります。通常の事業収益力を見るなら、再現しない大きな一時損益を分けた調整後NOPATも役立ちます。ただし、毎年のように「一時費用」が発生する会社で全額を除くと、収益力を過大評価します。

 私は、開示値と調整値を置き換えるのではなく、次の二本を並べます。

  • 報告値ROIC:財務諸表に計上された損益を基礎にし、実際に起きた失敗や費用も含めます。
  • 平常化ROIC:明確な一時要因を除き、継続事業の収益力を見ます。除外項目と理由を記録します。

 両者の差が大きいほど、何を除外したのかが重要です。会社独自の「コア利益」「調整後利益」を使う場合も、除外費用が本当に一度限りかを過去数年で確認します。

投下資本の作り方と計算例

 分母の投下資本には、大きく二つの作り方があります。資金をどこから調達したかを見る調達側アプローチと、事業のどこへ資金を使ったかを見る運用側アプローチです。資産と負債を一貫して分類すれば、理論上は同じ範囲を表せます。

調達側から作る方法

 基本形は次のとおりです。

投下資本=株主資本+有利子負債-非事業用の現金・金融資産

 株主資本には親会社の所有者に帰属する持分を使うのか、非支配持分を含む純資産を使うのかを決めます。有利子負債には短期借入金、長期借入金、社債を入れ、会計方針に応じてリース負債も含めます。現金を引く場合は、全額ではなく、日常の決済や運転資金に必要な現金を残し、余剰分だけを引く考え方があります。

 会社全体へ預けられた資本を評価したいなら、現金を引かず「株主資本+有利子負債」とする方法もあります。この式は余剰現金を抱える非効率もROIC低下として表します。事業本体だけを評価したいなら余剰現金を除く方法が向きます。どちらかが常に正しいのではなく、目的と定義の明示が必要です。

運用側から作る方法

 事業用資産から無利息の事業負債を引く方法です。

投下資本=事業用資産-無利息の事業負債

 事業用資産には売上債権、棚卸資産、有形固定資産、事業用の無形資産などを入れます。無利息の事業負債には仕入債務、未払費用などを入れます。仕入先が支払期日まで実質的に提供している資金を差し引くことで、自社が調達して事業へ拘束している資本を測ります。

 簡略化した会社で、次の数字を使います。

項目金額投下資本での扱い
売上債権500億円事業用資産に加える
棚卸資産400億円事業用資産に加える
事業用固定資産1,800億円事業用資産に加える
仕入債務・未払費用400億円無利息負債として引く
株主資本1,700億円調達資本に加える
有利子負債900億円調達資本に加える
余剰現金300億円非事業資産として引く

 運用側は「500+400+1,800-400=2,300億円」、調達側も「1,700+900-300=2,300億円」となります。実際の連結貸借対照表では、退職給付、引当金、繰延税金、持分法投資、非支配持分などの分類があるため、完全には一致しないことがあります。重要性の高い項目を決め、毎年同じ方針で計算します。

期中平均を使う

 損益計算書の利益は一年間の流れ、貸借対照表の投下資本は一時点の残高です。期間を合わせるため、分母には期首と期末の平均を使うのが基本です。

期中平均投下資本=(期首投下資本+期末投下資本)÷2

 期首2,100億円、期末2,500億円なら平均は2,300億円です。先ほどのNOPAT210億円を使うと、ROICは約9.1%となります。

210億円÷2,300億円×100=約9.1%

 期末残高2,500億円だけで割ると8.4%です。期末直前の大型M&Aや設備投資で資本が増えた場合、期首期末平均でも投資期間を正確に表せないことがあります。四半期平均、月次平均、買収後の年換算利益などを補助的に使いますが、将来利益を過大に見積もらないよう注意します。

ROICを利益率と資本回転率へ分解する

 ROICは結果だけを見ても、改善策が分かりません。次のように、売上高に対する税引後事業利益の割合と、投下資本が何回売上高へ変わったかに分解できます。

ROIC=NOPATマージン×投下資本回転率

NOPATマージン=NOPAT÷売上高

投下資本回転率=売上高÷投下資本

 売上高1,750億円、NOPAT210億円、投下資本2,300億円なら、NOPATマージンは12.0%、投下資本回転率は約0.76回です。「12.0%×0.76回」でROICは約9.1%になります。

改善方向主なKPI確認する副作用
売価・製品構成粗利益率、単価、高付加価値品比率数量減少、顧客離れ
原価・生産性歩留まり、稼働率、一人当たり生産量品質低下、保守不足
販管費売上高販管費率、広告効率研究開発・人材投資の削り過ぎ
売上債権回収日数、延滞債権厳しい条件による販売機会減少
棚卸資産在庫回転日数、不動在庫欠品、供給網の弱体化
仕入債務支払日数仕入先への負担、調達不安
固定資産稼働率、設備回転率更新投資不足、安全性低下
事業資産遊休資産、政策保有株式将来の選択肢や取引関係への影響

 オムロンが開示してきた「ROIC逆ツリー」は、ROICを売上総利益率、製造固定費率、在庫月数、債権・債務月数、設備回転率など、現場が動かせるKPIまで分解する考え方です。ROICを経営スローガンで終わらせず、値決め、生産、在庫、回収、設備投資へつなぐ点に意味があります。

 ただし、短期的なROIC最大化だけを目標にすると、必要な投資を削る危険があります。研究開発費、採用・教育費、広告費は多くが当期費用となるため、削れば分子の利益がすぐ増えます。設備投資を先送りすれば分母も増えません。しかし、製品力、人的資本、生産能力が弱くなれば、将来の利益と企業価値を損ないます。

 2026年の東証資料も、過剰な現預金や非事業資産を点検する一方、貸借対照表に表れにくい人的資本や知的財産を形成・強化する投資を積極的に進めることを期待しています。ROIC改善は「資産を減らすこと」ではなく、将来価値を生まない資本を減らし、価値を生む投資へ振り向けることです。

WACCを上回る意味とROICスプレッド

 ROICは単独の高さより、WACCとの関係が重要です。WACC(Weighted Average Cost of Capital)は、株主が求める収益率と、銀行・社債投資家など債権者が求める収益率を、資本構成で加重平均した資本コストです。

 概念的な式は次のとおりです。

WACC=株主資本の構成比×株主資本コスト+有利子負債の構成比×負債コスト×(1-税率)

 支払利息には税負担を減らす効果があるため、税引後WACCでは負債コストへ「1-税率」を掛けます。株主資本と負債の構成比は時価ベースを使うのが理論的ですが、未上場子会社や事業別計算では推計が必要です。株主資本コストも市場で直接観察できず、CAPM、配当割引モデル、投資家との対話などから見積もるため、WACCは一つの確定値ではありません。

 ROICとWACCの差をROICスプレッド、EVAスプレッドなどと呼びます。

ROICスプレッド=ROIC-WACC

 先ほどのROICが約9.1%、WACCが7.0%なら、スプレッドは約2.1ポイントのプラスです。投下資本2,300億円に対する資本コストは161億円、NOPATは210億円なので、単純化した経済的な付加価値は49億円です。

210億円-2,300億円×7.0%=49億円

 ROICがWACCを上回る状態は、資金提供者が求める収益を上回る事業利益を生み出しているという考え方です。反対にROICがWACCを下回れば、会計上は黒字でも、投じた資本に見合う収益へ届いていない可能性があります。

 ただし、一年だけ上回れば企業価値が必ず増え、株価が上がるわけではありません。次の条件を確認します。

  • ROICとWACCがともに税引後など同じ条件で計算されているか
  • 景気循環の好況期だけでなく、複数年平均でもスプレッドがプラスか
  • 新規投資でもWACCを上回るリターンを得られるか
  • 将来の利益成長が市場予想へすでに織り込まれていないか
  • WACCの推計レンジを変えても結論が変わらないか

 WACCを6.5%、7.5%、8.5%と置いた感応度表を作ると、会社が示す一点の推計へ依存せずに判断できます。東証も、資本コストを必ずしも精緻な一点として算出することを目的としていないと説明しています。

ROE・ROA・営業利益率との違い

 ROIC、ROE、ROA、営業利益率は、似て見えて対象が違います。どれか一つへ統一するのではなく、知りたいことに応じて使い分けます。

指標代表的な式主に測るもの注意点
ROICNOPAT÷投下資本株主・債権者が投じた事業資本の収益性企業ごとに定義差が大きい
ROE親会社株主帰属利益÷自己資本株主資本に対する最終利益借入増加や自己株買いで動きやすい
ROA利益÷総資産全資産に対する利益分子に営業利益、経常利益、純利益の複数定義がある
営業利益率営業利益÷売上高売上高に対する本業の利益率資産・運転資本の大きさを見ない

 ROEは株主の視点に近い指標です。分子は支払利息や税金を差し引いた親会社株主帰属利益、分母は株主に帰属する自己資本です。借入金で資産を増やし、事業利益が借入コストを上回ればROEは上昇することがありますが、財務リスクも高まります。ROICは有利子負債も分母へ含め、支払利息前の事業利益を使うため、資金調達方法の影響を分けやすい指標です。

 ROAは会社が保有する総資産の効率を見ます。総資産には現預金、投資有価証券、繰延税金資産など事業収益へ直接結びつかない資産も入ります。ROICは非事業資産を除き、無利息の事業負債を差し引く定義を使えるため、事業へ拘束された資本へ焦点を当てられます。ただし、ROAも分子の定義が統一されていないため、注記確認が必要です。

 営業利益率が高くても、大量の在庫、長い売掛金回収、大きな工場が必要ならROICが低いことがあります。反対に利益率が薄くても、在庫が早く回り、顧客から先に代金を受け取る事業は高いROICになり得ます。利益率と資本回転率を両方見る理由です。

 各指標の基本はROE・EPS・PER・PBRの見方でも解説しています。企業間比較では、まず営業利益率と資産構成を確認し、その後にROICとROEの差を財務レバレッジへ分解すると理解しやすくなります。

成長投資・増分ROIC・M&Aをどう評価するか

 現在のROICが高い会社が、将来も最も価値を生むとは限りません。企業価値の成長には、資本コストを上回る投資機会へ、どれだけの資本を再投資できるかが関係します。

増分ROICを見る

 新たに増やした投下資本がどれだけNOPATを増やしたかを見る考え方が増分ROICです。

増分ROIC=一定期間のNOPAT増加額÷同期間の投下資本増加額

 投下資本を500億円増やし、平常的なNOPATが50億円増えたなら、単純な増分ROICは10%です。WACCが7%ならプラスのスプレッドが見込めます。一方、既存事業のROICが15%でも、新規投資の増分ROICが5%しかなければ、その投資は資本コストを下回る可能性があります。

 実務では、投資と利益の発生時期がずれます。工場建設や新薬開発は数年間資本や費用が先行し、稼働・承認後に利益が出ます。投資初年度の増分ROICだけで失敗と決めず、会社が示す立ち上がり期間、稼働率、売上計画、撤退基準を追います。反対に、将来の完成年度だけを使って楽観的なROICを作るのも避けます。

M&Aではのれんを含むROICを確認する

 M&Aでは、買収先の純資産を超えて支払った部分がのれんなどとして貸借対照表へ計上されます。買収後の事業だけを評価するため「のれん控除前ROIC」を示す会社がありますが、投資家の資本配分評価では、原則として支払ったのれんを投下資本へ含めたROICも必要です。のれんを除けば、高値づかみした取得対価が分母から消え、買収の成否が良く見えるためです。

 日本基準では、のれんは原則として20年以内の効果が及ぶ期間で規則的に償却します。IFRSではのれんを定期償却せず、毎年の減損テストなどを行います。日本基準会社の営業利益にはのれん償却費が入りやすく、IFRS会社とは分子も違います。会計基準が異なる会社を比べるときは、のれん償却前後を併記し、取得対価を含む投下資本は残して比較します。

 減損損失を計上すると、その年の利益は大きく減り、翌年以降は資産の帳簿価額が下がります。翌年のROICが分母減少で機械的に上がっても、買収が成功へ転じたわけではありません。減損前の取得原価を使った累積評価、買収時に示した売上・利益・相乗効果との比較が必要です。

高ROICでも投資不足に注意する

 成熟事業が設備更新や研究開発を抑えると、短期的には分子が増え、分母の成長も止まるためROICが高く見えます。設備年齢、減価償却費に対する設備投資額、研究開発パイプライン、人員構成、顧客維持率を合わせて確認します。

 ROICを下げるから成長投資を避けるのではなく、投資期間中の一時的な低下と、完成後に期待する増分ROICを会社が説明できているかが重要です。2026年の東証アップデートも、目先の株主還元だけでなく、将来の稼ぐ力につながる規律ある成長投資と、その資本配分方針を重視しています。

余剰現金・無形資産・リース・業種別の注意点

 ROICは便利ですが、貸借対照表の会計数値を基礎にするため、事業モデルや会計方針によって比較がゆがみます。次のケースでは補助指標を使います。

余剰現金の控除は主観が入る

 現預金を投下資本から全額引くと、日常の支払い、災害への備え、金融規制、季節的な運転資金まで余剰と扱うおそれがあります。反対に一円も引かないと、明確な余剰資金が多い会社の事業収益力が低く見えます。

 投資家は「現金控除前ROIC」と「余剰現金控除後ROIC」を併記できます。差が大きい会社では、会社が必要現金をどう決め、余剰分を成長投資、M&A、負債返済、株主還元のどこへ配分するのかを確認します。

内部で育てた無形資産は分母に表れにくい

 研究開発、人材育成、ブランド、顧客基盤、ソフトウェアの一部は、支出時に費用処理され、貸借対照表へ十分に残らないことがあります。長年の投資で強いブランドや技術を築いた会社は、経済的には大きな無形資産を使っていても、会計上の投下資本が小さく、高ROICになりやすい傾向があります。

 買収で取得したブランドや顧客関係は資産計上される一方、自社で作った同種の資産は計上されないなど、成長方法による差もあります。ROICが高い会社を評価するときは、研究開発費、広告費、人的資本投資を単なる削減余地と見ず、競争優位を維持するために必要な再投資額を確認します。

リース会計で資産と負債の範囲が変わる

 IFRS第16号では、借手のほぼすべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表へ計上します。日本基準でも企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が公表され、2025年4月1日以後開始年度から早期適用でき、2027年4月1日以後開始年度から原則適用されます。

 店舗、倉庫、航空機などを多く借りる会社では、適用前後で投下資本が増え、利益の表示区分も変わるため、ROICの連続性が崩れることがあります。リース負債を有利子負債へ含めるなら、対応する使用権資産と利益も一貫して扱います。会計基準、適用年度、会社のROIC定義を確認し、借りる会社と所有する会社を同じ範囲で比べます。

金融業には一般的なROICが向きにくい

 銀行では預金、保険会社では保険契約負債が、単なる資金調達ではなく事業の主要な原材料です。利息も一般事業会社の営業外費用とは違い、本業の収益・費用に深く関わります。有利子負債と事業負債を機械的に分ける製造業型ROICは、金融業の実態を表しにくくなります。

 銀行・保険では、ROE、リスク調整後収益、規制資本に対する利益、健全性指標など、業種固有の指標を優先します。同じ理由で、総合商社、不動産、リース会社も、持分法投資、販売用不動産、金融債権の扱いを確認してからROICを使います。

投下資本が小さい・マイナスの会社

 顧客から前受金を受け取り、在庫や固定資産をほとんど持たない事業では、事業用資産から無利息負債を引いた投下資本が極端に小さく、マイナスになることがあります。この場合、ROICは非常に大きな値や負の値となり、通常の大小比較に意味がありません。営業利益率、フリーキャッシュフロー、顧客維持率などを使います。

古い設備と新しい設備の帳簿価額差

 長く使った設備は減価償却で帳簿価額が小さくなり、同じ生産能力でも投下資本が小さく見えます。新工場を建てた会社は分母が大きく、稼働前なら利益もまだ出ません。ROICの差が競争力ではなく、設備の取得時期や物価上昇による取得原価の差から生じていないかを確認します。

ROICを企業分析で使う10の手順

 会社開示のROICを見つけたら、次の順番で確認します。最初から小数点以下まで精密に計算するより、定義差と大きな調整項目を押さえる方が重要です。

1. 会社の計算式を探す

 統合報告書、中期経営計画、IRデータブック、有価証券報告書の注記を確認します。「ROIC=何÷何か」「税引前か税引後か」「投下資本の内訳」「平均期間」を記録します。式が開示されていなければ、数値だけを他社と比較しません。

2. NOPATを自分で再計算する

 営業利益へ平常的な税率を掛け、会社開示値との差を調べます。当期純利益型なら、金融損益、特別損益、非支配持分が入っていることを明記します。

3. 投下資本を二方向から照合する

 「株主資本+有利子負債-余剰現金」と「事業用資産-無利息事業負債」を作り、大きな差の原因を探します。のれん、持分法投資、退職給付、リース、非支配持分の扱いを確認します。

4. 期中平均と複数年を使う

 期首期末平均を基本に、M&Aや大規模設備投資がある年は四半期残高も見ます。好況・不況を含む5年程度の推移を並べ、単年のピークを実力と見なしません。

5. 利益率と回転率へ分解する

 ROIC改善が値上げ、製品構成、原価削減から来たのか、在庫・債権・設備の圧縮から来たのかを分けます。営業利益率が上がっても在庫が急増していれば、将来の値下げや評価損へ注意します。

6. WACCをレンジで置く

 会社の認識だけでなく、金利、株価変動、事業リスクを踏まえた複数のWACCを置きます。各レンジでROICスプレッドがプラスかを確認します。

7. 新規投資の増分ROICを見る

 全社の過去ROICではなく、これから使う設備投資やM&A資金の期待リターンを確認します。投資額、完成時期、目標利益、立ち上がり損失、追加投資、撤退基準を一つの表へ置きます。

8. 会計上の見かけの改善を除く

 減損による分母減少、資産売却、研究開発費削減、設備投資先送り、余剰現金控除ルールの変更がROICを押し上げていないかを確認します。改善後も売上、利益、営業キャッシュフローが持続するかを見ます。

9. 事業別ROICの配賦を読む

 複数事業を持つ会社では、全社ROICだけでなくセグメント別の資本効率が役立ちます。ただし、本社費、共通設備、現金、税金、のれんを各事業へどう配賦したかで数値が変わります。会社独自の区分を絶対値とせず、撤退・成長投資の判断と整合するかを確認します。

10. 株価の期待と分ける

 高ROICは優れた事業の手掛かりですが、良い会社と割安な株式は同じではありません。高いROICと成長がすでに株価へ織り込まれていれば、実績が良くても株価が上がらないことがあります。PER・PBR、利益成長率、事業リスクを合わせて確認します。

 最終的には、ROICの高さではなく「資本コストを上回る収益を持続できるか」「その条件を満たす成長投資先があるか」「経営陣が実績を検証し、資本配分を変えられるか」を評価します。短期的な株主還元だけに頼らない考え方は、長期投資の基本ともつながります。

まとめ

  • ROICは、事業へ投じた資本に対して税引後の事業利益をどれだけ生み出したかを見る指標です。
  • 標準的な式は「NOPAT÷期中平均投下資本」ですが、会計基準で統一された指標ではなく、会社ごとに定義が違います。
  • NOPATは営業利益を税引後へ直し、資金調達方法による支払利息の差を分ける考え方です。
  • 投下資本は「株主資本+有利子負債-非事業資産」、または「事業用資産-無利息事業負債」で作れます。
  • ROICはNOPATマージンと投下資本回転率へ分解し、利益率、在庫、債権、設備など現場のKPIへつなげます。
  • ROICがWACCを上回ると、資本コストを超える収益を生んでいると考えられます。ただし、両者の税引前・税引後など条件をそろえます。
  • ROEは株主資本への最終利益、ROAは総資産への利益、営業利益率は売上高への営業利益を測り、ROICとは対象が違います。
  • 成長評価では過去のROICだけでなく、新しく投じた資本の増分ROICと投資回収までの時間を確認します。
  • M&Aでは、のれんを除いたROICだけでなく、実際の取得対価を含むROICで資本配分を評価します。
  • 余剰現金、内部生成の無形資産、リース、金融業、減損、設備年齢によって比較がゆがむため、補助指標が必要です。

よくある質問

Q. ROICは何%なら高いですか?

 全企業共通の合格水準はありません。業種、景気局面、会計定義によって水準が違うため、同じ定義による過去推移と同業比較に加え、会社のWACCを上回っているかを確認します。WACCも推計値なので一点ではなくレンジで比べます。

Q. ROICとROEはどちらを見ればよいですか?

 事業へ投じた株主資本と有利子負債全体の収益力を見るならROIC、株主資本に対する最終利益を見るならROEが向きます。両方を使い、差が大きいときは借入金、支払利息、非事業損益、自己株買いなどを確認します。

Q. ROICがWACCを上回ると株価は上がりますか?

 必ず上がるわけではありません。プラスのROICスプレッドは価値創造の手掛かりですが、持続期間、成長投資の余地、景気変動、市場予想への織込みで株価反応は変わります。株価指標の見方と合わせて評価します。

Q. ROICの投下資本から現金を引きますか?

 事業本体の収益力を見るなら非事業用の余剰現金を引く方法があり、会社全体の資本配分を見るなら引かない方法もあります。必要運転資金まで全額引かないようにし、現金控除前後を併記すると判断しやすくなります。

Q. 銀行や保険会社でもROICを使えますか?

 一般事業会社と同じROICは使いにくい場合があります。預金や保険契約負債、利息が本業そのものと深く結びつき、有利子負債と事業負債を単純に分けられないためです。金融業ではROE、リスク調整後収益、規制資本に対する利益などを優先します。

参考リンク(出典)