PEGレシオとは?計算方法と成長株評価での使い方を解説
PEGレシオの計算式、予想PERとEPS成長率の選び方、1倍の意味、成長株比較の手順、赤字・景気循環株など使えないケースを解説します。
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PEGレシオとは、株価収益率(PER)を1株当たり利益(EPS)の成長率で割り、株価の高さと利益成長の速さを一つにまとめた相対評価指標です。Price Earnings to Growth Ratioの頭文字から「PEG」と呼ばれます。
PERが高い成長株でも、利益が速く増え続けるなら、その高い評価に一定の根拠があるかもしれません。反対にPERが低くても、利益が伸びない、または減少する会社なら割安とは限りません。PEGレシオは、PERだけでは見落とす成長率の違いを補うために使います。
基本式は次のとおりです。
PEGレシオ = PER ÷ EPS成長率(%を整数として使用)
予想PER20倍、予想EPS成長率10%なら、PEGレシオは2.0倍です。
20 ÷ 10 = 2.0倍
ここで10%を0.10として割ると200になってしまいます。PEGレシオの慣行では、10%を「10」、20%を「20」として計算します。
ただし、PEGレシオには会計基準で定められた統一的な算定方法がありません。分子に実績PERと予想PERのどちらを使うか、分母に翌期成長率、過去成長率、3~5年の予想成長率のどれを使うかで値が大きく変わります。情報サービスに表示された数字を比較する前に、必ず定義を確認します。
| 確認軸 | 主な選択肢 | 注意点 |
|---|---|---|
| PER | 実績PER、会社予想PER、アナリスト予想PER | 株価とEPSの基準日をそろえる |
| EPS | 基本的EPS、希薄化後EPS、調整後EPS | 株式報酬・転換証券・一時損益を確認 |
| 成長率 | 1年、3年CAGR、5年CAGR | 同じ期間・同じ起点で比較する |
| 予想主体 | 会社計画、アナリスト予想、自分の推計 | 楽観度と更新日が違う |
| 会計利益 | 報告利益、継続事業利益、調整後利益 | 分子のPERと分母の成長率を同じ利益定義にする |
この記事では、PEGレシオの正しい計算手順、入力値の選び方、1倍という目安の限界、企業分析で使える場面と使えない場面を解説します。先にPER・EPSの基本を確認したい場合は、ROE・EPS・PER・PBRの見方も参考になります。
PEGレシオとは、PERを利益成長率で調整した指標
PERは、現在の株価が1株当たり利益の何倍まで買われているかを示します。
PER = 株価 ÷ EPS
株価3,000円、EPS150円ならPERは20倍です。
3,000円 ÷ 150円 = 20倍
PER20倍という数字だけでは、高いか安いかを決められません。毎年EPSが2%しか増えない会社と、20%増える会社では、将来利益の積み上がりが違うからです。PEGレシオは、PERを成長率で割り、投資家が利益成長1ポイントに対して何倍のPERを払っているかを見る簡便な物差しです。
| 会社 | 予想PER | EPS成長率 | PEGレシオ |
|---|---|---|---|
| A社 | 20倍 | 10% | 2.0倍 |
| B社 | 30倍 | 25% | 1.2倍 |
| C社 | 12倍 | 4% | 3.0倍 |
PERだけならC社が最も低く、B社が最も高く見えます。PEGレシオでは、B社は高いPERに対して成長率も高く、C社は低PERでも成長が遅いという別の見方ができます。
しかし、B社がA社より必ず割安とは限りません。成長率25%を何年維持できるか、その成長に必要な投資額、事業リスク、金利、利益の現金化などが表に入っていないからです。PEGレシオは銘柄を絞り込む入口であり、企業価値を直接計算するDCF法の代わりではありません。
PEGレシオに単位はあるか
PERは「倍」、成長率は慣行上パーセントの数値を使うため、PEGレシオも一般に「倍」と表現されます。ただし、経済的に厳密な単位を持つ指標というより、市場慣行による相対値です。
同じ会社でも、利益成長率を15%とするか0.15とするかで100倍違います。データを表計算へ取り込むときは、セルに15と入れるのか、15%と表示された内部値0.15を使うのかを確認します。内部値が0.15なら、式では100を掛けて15へ直します。
PEG = PER ÷(表計算上の成長率 × 100)
PEGレシオは会社が開示する法定指標ではない
EPSは会計基準に算定方法がありますが、PEGレシオ自体は財務諸表の法定開示項目ではありません。証券会社、情報サイト、株式スクリーナーが独自の予想値で計算します。そのため、同じ銘柄・同じ日でも表示値が違うことがあります。
値が違う場合は誤りと決めつけず、予想EPS、成長期間、調整後利益、株価基準日を確認します。再現できないPEGレシオは、投資判断の根拠に使わない方が安全です。
分子のPERは実績と予想のどちらを使うか
PEGレシオの分子にはPERを使いますが、PERには複数の種類があります。
実績PER
直近12か月または直近通期の実績EPSで株価を割ります。確定した利益を使うため客観性は高い一方、PEGレシオの分母に将来成長率を使うと、過去利益と将来成長を混ぜることになります。
大型投資、事業売却、景気回復などで利益水準が大きく変わる会社では、実績PERが今後の稼ぐ力を表さない場合があります。
会社予想PER
現在の株価を会社予想EPSで割ります。日本企業が次期の親会社株主に帰属する当期純利益と1株当たり予想利益を示している場合、比較的計算しやすい方法です。
ただし、会社計画の慎重さは企業ごとに違います。期初は保守的に予想し、上方修正を重ねる会社と、達成困難な目標を先に示す会社を同じ基準で比較するとずれます。過去の会社予想と実績の差を確認します。
アナリスト予想PER
複数アナリストの予想EPSを平均・中央値などで集計したコンセンサスを使います。会社予想が1年先だけでも、アナリスト予想なら2~3年先の成長率を計算できる場合があります。
一方、予想を出すアナリスト数が少ない小型株では、一人の変更で平均値が大きく動きます。予想の最高値と最低値の差、更新日、対象人数を確認します。コンセンサスは市場参加者の現在予想であり、将来利益を保証する値ではありません。
予想PERと予想成長率を対応させる
基本は、予想PERには予想成長率、実績PERには実績成長率を対応させます。将来の成長株評価なら、現在株価を次期予想EPSで割った予想PERと、その次の数年間の予想EPS成長率を使う方法が分かりやすくなります。
例えば、2027年3月期予想EPSを分母にしたPERを使いながら、2025年3月期から2026年3月期の過去成長率で割ると、時間軸がずれます。PEGレシオの値だけでなく「何年のEPSを使ったか」を併記します。
基本的EPSと希薄化後EPS
日本の1株当たり当期純利益に関する会計基準では、普通株主に帰属する利益を期中平均株式数などで割って基本的EPSを計算し、転換社債や新株予約権などの潜在株式を考慮した潜在株式調整後EPSも開示します。
成長企業は、ストックオプション、株式報酬、転換証券による希薄化が大きい場合があります。基本的EPSだけで予想PERを計算し、成長率には希薄化後EPSを使うと整合しません。可能なら希薄化後の予想EPSで統一し、潜在株式の増加もシナリオへ入れます。
分母のEPS成長率をどう計算するか
PEGレシオが最も大きく変わるのは、分母の成長率です。同じ銘柄でも、1年成長率、過去3年CAGR、今後5年の予想CAGRでは値が異なります。
1年成長率
EPS成長率 =(次期EPS ÷ 当期EPS - 1)× 100
当期EPS100円、次期予想EPS120円なら20%です。予想PERが24倍なら、PEGレシオは1.2倍です。
(120円 ÷ 100円 - 1)× 100 = 20%
24 ÷ 20 = 1.2倍
計算しやすい一方、一年だけの増益は一時利益、税率、為替、原材料価格、前年の低い利益による反動を含みます。継続的な成長率とみなす前に、利益増加の中身を確認します。
複数年の年平均成長率(CAGR)
3~5年の成長を年率へ直す場合はCAGRを使います。
EPSのCAGR ={(最終年EPS ÷ 起点EPS)の1/年数乗 - 1}× 100
EPSが3年間で100円から172.8円へ増える架空例では、CAGRは20%です。
{(172.8 ÷ 100)の1/3乗 - 1}× 100 = 20%
予想PER25倍ならPEGレシオは1.25倍です。
25 ÷ 20 = 1.25倍
単純に「72.8%増÷3年=約24.3%」と割ると、複利効果を無視します。複数年ではCAGRを使います。
過去成長率と予想成長率
過去CAGRは確定値から計算できますが、将来も続くとは限りません。予想CAGRは成長株の評価に合いますが、推計誤差が大きくなります。
| 成長率 | 長所 | 弱点 |
|---|---|---|
| 過去1年 | 簡単、直近変化を反映 | 反動・一時要因に弱い |
| 過去3~5年CAGR | 単年のぶれを緩和 | 事業構造の変化に遅れる |
| 会社予想1年 | 経営陣の最新計画 | 会社ごとに予想姿勢が違う |
| アナリスト予想3~5年 | 中期成長を反映 | 対象人数・仮定・更新日が不透明な場合 |
| 自分のシナリオ | 事業KPIを反映できる | 仮定に主観が入る |
実務では、会社予想、コンセンサス、自分の標準・弱気シナリオを並べます。一つの予想に依存するより、成長率がどこまで下がるとPEGレシオの見方が変わるかを確認します。
EPSがゼロ・赤字・極端に小さい場合
起点EPSがゼロまたは赤字なら、通常の成長率を意味のある形で計算できません。EPSが1円から20円へ増えると1,900%成長ですが、利益水準が正常化しただけかもしれません。PEGレシオは極端に小さくなり、割安に見えます。
赤字から黒字へ転換する企業は、売上成長率、粗利益率、損益分岐点、営業キャッシュフロー、黒字定着後の利益率を使います。PEGレシオを無理に計算しません。
計算例と感応度分析
架空の成長企業D社を例に、PEGレシオを計算します。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 4,500円 |
| 次期予想EPS | 180円 |
| 3年後予想EPS | 311.0円 |
| 予想期間 | 3年 |
まず予想PERを計算します。
4,500円 ÷ 180円 = 25倍
次に、EPSが180円から311.0円へ3年間で増えるCAGRを計算します。
{(311.0 ÷ 180)の1/3乗 - 1}× 100 ≒ 20%
したがってPEGレシオは1.25倍です。
25 ÷ 20 = 1.25倍
しかし、3年後EPSは予想です。成長率が変わるとPEGレシオは次のように動きます。
| 予想PER | EPS成長率 | PEGレシオ |
|---|---|---|
| 25倍 | 10% | 2.50倍 |
| 25倍 | 15% | 1.67倍 |
| 25倍 | 20% | 1.25倍 |
| 25倍 | 25% | 1.00倍 |
| 25倍 | 30% | 0.83倍 |
成長率を20%から15%へ5ポイント下げるだけで、PEGは1.25倍から1.67倍へ上がります。PEGレシオは見た目以上に予想成長率へ敏感です。
株価とEPSが同時に動く場合
決算発表後は、株価と予想EPSの両方が変わります。上方修正でEPSが増えても、株価がそれ以上に上がれば予想PERは高くなり、PEGレシオも上昇することがあります。
| ケース | 株価 | 予想EPS | PER | 成長率 | PEG |
|---|---|---|---|---|---|
| 発表前 | 4,500円 | 180円 | 25.0倍 | 20% | 1.25倍 |
| EPSだけ上方修正 | 4,500円 | 200円 | 22.5倍 | 22% | 1.02倍 |
| 株価も上昇 | 5,500円 | 200円 | 27.5倍 | 22% | 1.25倍 |
好決算でも、期待が株価へすでに織り込まれていればPEGは下がりません。「増益だから割安」ではなく、株価の反応を含めて計算し直します。
PEGから目標株価を逆算する場合の注意
仮に目標PEGを1.5倍、予想成長率12%と置くと、対応するPERは18倍です。予想EPS200円なら、単純な目標株価は3,600円です。
1.5 × 12 = PER18倍
18 × 200円 = 3,600円
これは入力した目標PEGを株価へ置き換えただけで、企業価値を独立に算定したものではありません。なぜ1.5倍が妥当か、成長率12%が何年続くか、終盤の成長率と資本コストを説明できなければ循環論法になります。目標株価の主な方法には、同業PER、DCF、PBR、EV/EBITDAなどもあります。
PEGレシオ1倍は割安という目安の限界
一般に、PEGレシオが1倍以下なら成長率に比べPERが低く、1倍前後なら均衡、1倍を大きく超えると成長に対して株価が高い、という目安が使われます。しかし、1倍は会計基準や金融理論が保証する適正値ではありません。
PER20倍・成長率20%ならPEG1倍ですが、成長率20%が一年だけか10年続くかで価値は違います。事業リスクが高い会社と低い会社、成長に巨額投資が必要な会社と少ない投資で伸びる会社も、同じPEG1倍になり得ます。
ニューヨーク大学のアスワス・ダモダラン教授は、PEGレシオが成長率だけでなく、リスク、配当・利益還元、金利、成長の質などの影響を受けると説明しています。PERを成長率で割っても、成長の影響が完全に取り除かれるわけではありません。
金利
将来利益の現在価値は金利・資本コストで変わります。金利が低い局面では遠い将来の利益価値が高くなり、高成長企業へ高いPERが付きやすくなります。金利上昇局面では同じ成長率でも許容PERが低下し、PEGレシオの市場平均も変わり得ます。
異なる時期のPEGレシオを比べる場合、当時の金利、株式リスクプレミアム、市場全体のPERを確認します。「以前はPEG2倍まで買われた」ことが、現在の適正水準を示すとは限りません。
事業リスク
同じ20%成長でも、長期契約で継続収入が見込める会社と、単一製品・単一顧客へ依存する会社では予想の確度が違います。高リスク企業は、低いPEGでも割安とは限りません。
競争優位、顧客集中、規制、特許、為替、負債、経営者への依存、供給制約を確認します。低PEGは、単に市場が高いリスクを織り込んでいる可能性があります。
利益還元
利益の多くを配当・自社株買いへ回す成熟企業と、全額を再投資する成長企業では、同じEPS成長率でも株主が受け取るキャッシュと将来投資機会が違います。PEGレシオの基本式には配当利回りが入りません。
配当を加味してPERを「利益成長率+配当利回り」で割るPEGYのような派生指標もありますが、これも統一基準ではありません。比較する全社で同じ定義を使い、配当の持続性を確認します。
成長の質と再投資効率
利益を20%増やすために投下資本を30%増やす会社と、投下資本を10%増やすだけで利益を20%伸ばす会社では価値創造が違います。前者は増資・借入・設備投資が必要になり、フリーキャッシュフローが残らない可能性があります。
売上成長率、営業利益率、ROIC、フリーキャッシュフロー、追加投資額を確認します。PEGレシオが同じなら、少ない再投資で持続的に成長できる会社の方が、一般に成長の質は高いと考えられます。
EPS成長の中身を分解する
EPSは、親会社株主に帰属する利益と株式数の両方で動きます。
EPS = 普通株主に帰属する利益 ÷ 期中平均株式数
EPS成長が事業の売上拡大から生じたのか、利益率改善、税率低下、自社株買い、一時利益から生じたのかを分けます。
EPS成長 ≒ 売上成長 + 利益率変化 + 金融損益・税率変化 + 株式数変化
厳密な加算式ではありませんが、分析の順番として役立ちます。
売上成長
数量、単価、顧客数、店舗数、契約単価、為替、M&Aに分解します。M&Aによる売上増加は、買収対価、のれん、追加負債を伴います。既存事業の成長と買収分を分けます。
利益率改善
値上げ、製品構成、稼働率、原材料価格、広告費、人員採用の抑制などを確認します。固定費の大きい会社は、売上回復局面に利益が急増しますが、増収が一巡すると成長率も低下します。
コスト削減によるEPS成長には限界があります。研究開発、保守、人材育成まで削れば、短期利益は増えても将来成長を損なう可能性があります。
税率・一時損益
資産売却益、補助金、訴訟戻入れ、減損の反動、繰延税金資産の計上などで純利益が増えると、PEGレシオは低く見えます。継続事業の営業利益や調整後利益も確認します。
ただし、会社の調整後EPSを無条件に採用しません。株式報酬、毎年の再編費用、買収関連費用を恒常的に除外している場合、実際の株主負担を過小評価します。報告EPSからの調整表を作ります。
自社株買いと希薄化
純利益が変わらなくても、自己株買いで平均株式数が10%減ればEPSは約11.1%増えます。
1 ÷(1-10%)-1 ≒ 11.1%
自社株買いが余剰現金で行われ、割安な株価なら一株価値を高める可能性があります。一方、借入を増やした買い戻しは財務リスクを高めます。株式報酬による新株発行が買い戻し効果を相殺する場合もあります。
PEGレシオの分母にEPS成長率を使うなら、純利益成長率との差を株式数変化として確認します。EPSだけが増え、売上・営業利益・営業CFが伸びていない会社には注意します。
PEGレシオが使えない・誤解しやすいケース
PEGレシオは、利益が黒字で、比較的安定したプラス成長を見込める会社に向きます。次のケースでは数字が計算できても意味が弱くなります。
赤字企業・黒字転換直後
PERを計算できないため、PEGレシオも基本的に使えません。黒字転換直後は起点利益が小さく、成長率が数百%になるため、異常に低いPEGが出ます。正常利益へ到達した後の利益率をシナリオで評価します。
景気循環株
半導体、海運、鉄鋼、化学、資源などは、景気の谷から回復すると利益成長率が急上昇し、PEGが低くなります。しかし利益のピークではPERが低く見え、次に減益へ向かうことがあります。
一時点のPEGではなく、過去の景気循環を通じた平均利益、稼働率、在庫、受注、商品価格、供給能力を見ます。景気循環の考え方は景気敏感株のリスクも参考になります。
金融機関
銀行・保険は、信用費用、金利、保有有価証券、規制資本で利益が大きく動きます。通常の事業会社と資本構造も異なります。PEGレシオだけでなく、PBR、ROE、自己資本、利ざや、信用コスト、契約サービスマージンなど業種固有指標を使います。
成長率がゼロまたはマイナス
成長率ゼロでは割り算ができません。マイナス成長率ならPEGもマイナスになりますが、「負のPEGが割安」という意味にはなりません。減益理由と回復時期を別に分析します。
極端な成長率
前年の特別損失、供給停止、感染症、工場事故からの反動で利益が数倍になる場合、低PEGは持続成長を示しません。2~3年前の正常利益を起点にし、次年度以降の成長率も確認します。
多額の負債・優先証券がある会社
PERとPEGレシオは普通株主の利益に基づく株主価値の倍率で、企業全体の負債を直接比較しません。同じPEGでも、一方が無借金、もう一方が巨額負債ならリスクは違います。EV/EBITDA、ネット有利子負債、利払い能力を併用します。
会計基準・決算期・通貨が違う会社
研究開発費の資産計上、株式報酬、リース、買収無形資産の償却、調整後利益の定義が違えばEPSの比較可能性が下がります。決算期が違う会社では予想期間もそろえます。海外企業を比較するとき、為替換算によるEPS成長と現地通貨ベースの成長を分けます。
同業比較でPEGレシオを使う実践手順
PEGレシオは、事業モデルと成長段階が近い会社の相対比較に向きます。業種が違う銘柄を一つのランキングにして、最小値だけを買う方法は避けます。
手順1:比較対象をそろえる
顧客、収益モデル、地域、資本集約度、利益率、事業リスクが近い会社を選びます。同じ「IT」でも、安定した保守契約を持つ会社と、広告単価に左右されるプラットフォームでは適正倍率が違います。
手順2:基準日とEPS定義をそろえる
全銘柄の株価を同じ日で取得し、次期予想EPSまたは同じ12か月先EPSを使います。基本的EPSか希薄化後EPSか、報告利益か調整後利益かも統一します。
手順3:成長期間と予想元をそろえる
全社を1年成長率または3年CAGRで計算します。A社だけ会社予想、B社だけ楽観的なアナリスト予想という混在を避けます。対象アナリスト数と予想分散も記録します。
手順4:一時要因を調整する
資産売却、減損反動、税率、M&A、株式数変化を分けます。調整する場合は、PERのEPSと成長率のEPSの両方へ同じルールを適用します。
手順5:成長の裏付けを確認する
売上、受注、顧客数、単価、店舗数、製品投入、粗利益率など、EPSへ至る事業KPIを確認します。経営計画の目標値をそのまま使わず、必要な市場シェアや設備能力を逆算します。
手順6:リスクと再投資を併記する
PEGレシオに加え、ROIC、営業CF、フリーキャッシュフロー、ネット有利子負債、顧客集中、株式希薄化を表へ入れます。成長率が同じなら、少ない再投資と低い財務リスクで実現できる会社を評価します。
手順7:三つのシナリオを作る
架空の会社で予想PER24倍とし、成長率を弱気10%、標準16%、強気24%と置きます。
| シナリオ | EPS成長率 | PEGレシオ | 主な前提 |
|---|---|---|---|
| 弱気 | 10% | 2.40倍 | 値上げ失敗、採用費増加 |
| 標準 | 16% | 1.50倍 | 会社計画に近い進捗 |
| 強気 | 24% | 1.00倍 | 新製品拡大、利益率改善 |
現在株価が強気シナリオでしか割安に見えないなら、安全余裕は小さくなります。標準または弱気シナリオでも許容できるかを判断します。
手順8:決算ごとに更新する
株価、予想EPS、成長率は日々または四半期ごとに変わります。決算後に売上・利益・KPIが予想からずれた理由を確認し、PEGレシオを再計算します。古い成長率と新しい株価を組み合わせません。
最終的には次の表を保存します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 基準日 | 株価と予想の取得日 |
| PER | 実績・予想、使用EPS、株価 |
| 成長率 | 期間、CAGRか単年か、予想元 |
| PEG | 計算式を再現できる数値 |
| 利益の質 | 一時損益、税率、M&A、株式数変化 |
| 事業KPI | 売上、受注、顧客、単価、利益率 |
| 資本効率 | ROIC、設備投資、運転資本 |
| 財務リスク | ネット負債、利払い、希薄化 |
| 感応度 | 弱気・標準・強気のPEG |
まとめ
- PEGレシオはPERをEPS成長率で割り、株価評価と利益成長のバランスを見る相対指標
- 計算では成長率10%を「10」として使い、0.10で割らない
- 実績PER・予想PER、単年成長率・3~5年CAGRの選択で値が変わる
- 予想PERには予想成長率、実績PERには実績成長率を対応させ、時間軸をそろえる
- 複数年のEPS成長率は単純平均ではなくCAGRで計算する
- PEG1倍は慣行的な目安であり、理論上の適正価格を保証しない
- 金利、事業リスク、配当、再投資効率、成長期間は基本式に直接入っていない
- EPS成長を売上、利益率、税率・一時損益、株式数変化へ分解する
- 赤字、黒字転換直後、景気循環株、ゼロ・マイナス成長ではPEGの意味が弱い
- 同業比較では基準日、EPS定義、予想元、成長期間を全社で統一する
- PEGだけで売買を決めず、ROIC、キャッシュフロー、負債、希薄化、事業KPIを併用する
PEGレシオの便利さは、PERが高いか低いかという議論へ成長率を加えられることです。一方、その簡単さゆえに、成長予想の根拠やリスクが隠れます。数字の大小より、どのEPSと何年の成長率を使ったかを再現し、成長が売上・利益率・キャッシュへつながるかを確認することが重要です。
よくある質問
Q. PEGレシオは低いほど良いですか?
同じ事業リスク、成長期間、利益の質なら、低い方が成長率に対してPERが低いと読めます。しかし、低い理由が景気回復の反動、極端に高い予想成長率、財務リスクにある場合もあります。低さだけで割安と判断しません。
Q. PEGレシオ1倍以下なら買いですか?
1倍以下は慣行的に割安の目安とされることがありますが、売買基準ではありません。成長率が何年続くか、予想の確度、金利、ROIC、必要投資、負債を確認します。弱気シナリオでも投資判断が成り立つかが重要です。
Q. PEGレシオの成長率は何年を使いますか?
統一ルールはありません。翌期の1年成長率や、今後3~5年の予想EPS CAGRがよく使われます。比較する銘柄すべてで期間、起点、予想元をそろえ、記事や表に明記します。
Q. 赤字企業のPEGレシオは計算できますか?
赤字では通常のPERを計算できないため、PEGレシオも基本的に使えません。黒字転換直後も成長率が極端になります。売上成長、粗利益率、営業CF、正常化後の利益率を使って分析します。
Q. PEGレシオはどこで確認できますか?
証券会社や情報サービスの株式スクリーナーに表示される場合があります。ただし、予想PER、成長期間、アナリスト予想の集計方法が違います。会社の決算資料とEPS予想から自分で再計算し、表示値と照合する方法が確実です。決算書の読み方も併せて確認してください。
出典・参考資料
- 日本取引所グループ「株価収益率(PER)」
- 企業会計基準委員会「1株当たり当期純利益に関する会計基準」
- 米国証券取引委員会 Investor.gov「Price-earnings Ratio」
- Fidelity「Company Valuation Ratios―PEG」
- Charles Schwab「What Is the PEG Ratio? Basics, Formula, and Risks」
- Aswath Damodaran, New York University「PEG Ratios」
- Aswath Damodaran, New York University「Market-wide Regressions of Multiples: PEG Ratios in January 2026」
※本記事は2026年7月時点の公表資料を基にした一般的な解説です。PEGレシオには統一された算定基準がなく、予想値は更新され、実績と異なる可能性があります。実際の投資判断では各社の最新開示と複数の評価方法を確認してください。
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