引当金とは?計上要件・種類・決算での見方をわかりやすく解説
引当金の4つの計上要件、仕訳と取崩し、賞与・製品保証・工事損失・訴訟などの種類、日本基準とIFRSの違いを決算例付きで解説します。
目次11項目
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引当金とは、将来発生する可能性が高い費用や損失のうち、その原因がすでに当期以前にあり、金額を合理的に見積もれるものを、実際の支払いより先に決算へ反映する会計項目です。
例えば、会社が当期に販売した製品を1年間無償修理すると約束している場合、修理代の支払いは翌期でも、原因となる販売は当期に起きています。当期の売上に対応する保証費用を見積もって引当金を計上すれば、売上と費用を同じ期間に対応させられます。
引当金は、会社が自由に利益を貯めておく「内部留保」ではありません。計上時には費用または損失が発生し、利益と純資産が減ります。多めに計上すれば当期利益が小さくなり、後で不要になって取り崩せば利益が増えるため、見積りの妥当性は企業分析上の重要な確認点です。
| 確認軸 | 主な問い |
|---|---|
| 原因 | 決算日までに、費用・損失の原因となる事象が起きたか |
| 可能性 | 将来の支出や損失が発生する可能性は高いか |
| 見積り | 金額を合理的な根拠で算定できるか |
| 時期 | 1年以内か長期か、割引計算が必要か |
| 性質 | 製品保証、賞与、工事損失、訴訟、環境対策など何の負担か |
| 変動 | 繰入れ、目的使用、戻入れ、見積り変更がどう動いたか |
この記事では、日本基準の四要件、仕訳、代表的な種類、IFRSとの違い、貸倒引当金や偶発債務との区別、決算で確認する手順を解説します。貸借対照表や損益計算書の基本は決算書の読み方も参考になります。
引当金とは何か、計上するための4要件
日本基準では、企業会計原則注解18が引当金の基本的な考え方を示しています。次の四つをすべて満たす場合、当期の負担に属する金額を費用または損失として計上し、対応する引当金を貸借対照表へ表示します。
- 将来の特定の費用または損失であること
- 発生原因が当期以前の事象にあること
- 発生する可能性が高いこと
- 金額を合理的に見積もれること
四要件の意味を、製品保証で考えます。将来の修理費という特定の費用があり、原因は当期までの製品販売、過去の故障率から修理発生の可能性が高く、販売台数・故障率・一件当たり修理費から金額を見積もれるなら、製品保証引当金を計上します。
一方、来期も事業を続けるために必要な広告費、従業員研修費、将来購入する原材料費などは、決算日時点で原因となる義務が生じていません。経営計画に予算があるだけでは、通常、引当金にできません。将来の営業赤字も、単に赤字が予想されるだけでは現在の負担ではないため、引当金を計上する根拠になりません。
「可能性が高い」と「合理的に見積もれる」
発生可能性と金額の見積可能性は別の条件です。敗訴の可能性が高くても、賠償額を合理的に見積もれなければ引当金を計上できない場合があります。反対に損失額の範囲を計算できても、支払いが発生する可能性が高くなければ、引当金ではなく偶発債務の注記を検討します。
見積りには、過去実績、契約条件、法令、弁護士や技術者の意見、顧客ごとの状況、期末後に判明した追加情報などを使います。決算後に新しい情報が得られても、それが決算日時点の状況を裏付けるものなら見積りへ反映する場合があります。決算後に新たに起きた事象とは区別します。
引当金は現金を別口座へ積み立てる仕組みではない
引当金を100億円計上しても、銀行口座に100億円を隔離するわけではありません。引当金は会計上の負債または評価勘定であり、支払い能力を直接保証しません。将来の支出に備えるには、現預金、借入余力、保険、資産売却など実際の資金手当てが必要です。
貸借対照表に引当金がある会社については、金額だけでなく、支払時期と資金余力を確認します。特に巨額訴訟、リコール、原状回復、事業再編は、利益への反映が済んでいても、現金支出がこれから発生します。
引当金の仕訳・繰入れ・取崩しを数字で理解する
引当金の動きは「繰入れ」「目的使用」「戻入れ」「追加計上」に分けると理解しやすくなります。
架空の会社が当期販売分の将来修理費を600万円と見積もった場合、当期に次のような処理をします。
借方:製品保証引当金繰入 600万円 / 貸方:製品保証引当金 600万円
損益計算書には600万円の費用、貸借対照表には600万円の引当金が計上されます。この時点では修理代をまだ支払っていないため、現金は減りません。
翌期に実際の修理へ450万円を支払った場合は、引当金を目的に沿って使用します。
借方:製品保証引当金 450万円 / 貸方:現金預金 450万円
修理費は前期に見積計上済みなので、見積りどおりの部分について翌期に同じ費用を二重計上しません。残った150万円が不要と判断されれば、戻入れによって引当金を減らします。表示する損益科目は引当金の性質や会社の会計方針により異なります。
借方:製品保証引当金 150万円 / 貸方:引当金戻入益など 150万円
反対に、実際の修理見込みが800万円へ増えれば、不足する200万円を追加で費用計上します。引当金は最初の見積額を固定するものではなく、各決算日に最新情報で見直します。
| 変動 | 引当金残高 | 当期利益 | 現金 |
|---|---|---|---|
| 新規繰入れ | 増える | 減る | 原則変わらない |
| 見積増加による追加繰入れ | 増える | 減る | 原則変わらない |
| 目的使用 | 減る | 原則、同額部分は変わらない | 減る |
| 不要額の戻入れ | 減る | 増える | 変わらない |
多数の保証を期待値で計算する例
1万台を販売し、過去実績などから、80%は修理なし、15%は1万円の軽微な修理、5%は5万円の重大修理になると見積もった架空例を考えます。
1台当たりの期待修理費は次のとおりです。
80%×0円 + 15%×1万円 + 5%×5万円 = 4,000円
1万台分の引当額は4,000万円です。
4,000円 × 1万台 = 4,000万円
多数の同種義務は、結果の確率加重平均が合理的な見積りになる場合があります。一方、単独の訴訟のように一件だけの義務では、最も可能性が高い結果を出発点としつつ、他の結果やリスクも検討します。機械的に同じ算定方法をすべてへ使いません。
流動負債と固定負債
一般に、決算日の翌日から1年以内に支出する見込みの引当金は流動負債、1年を超えるものは固定負債に表示します。ただし、個別の会計基準や事業の正常営業循環基準が優先される場合があります。
残高100億円でも、翌期に全額支払う会社と、10年間で支払う会社では資金負担が違います。注記の支払時期、長短区分、割引率を確認します。
賞与・製品保証・工事損失など代表的な引当金
企業会計原則注解18は、製品保証引当金、売上割戻引当金、賞与引当金、工事補償引当金、修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金などを例示しています。ただし、現在は個別の会計基準が整備された項目もあり、名称だけで同じ処理とは限りません。
賞与引当金
翌期に支給する賞与のうち、当期の従業員勤務に対応する部分を見積計上します。例えば、算定対象期間が10月から3月、支給が6月なら、3月末までの勤務に対応する賞与を当期へ計上します。
業績連動賞与では、売上、利益、個人評価、在籍条件などを反映します。会社が支給額を自由に撤回できる制度か、就業規則や慣行によって実質的な義務が生じているかも重要です。役員賞与は、会社法・会計・税務で使用人賞与と異なる論点があります。
製品保証引当金
販売済み製品の無償修理・交換義務に備えます。販売台数、保証期間、製品世代別の故障率、部品単価、工賃、物流費などから見積もります。新製品は実績が少ないため、類似製品や技術評価を使います。
通常の品質保証とは別に、顧客が追加料金を払う延長保証がサービスを提供する契約なら、受け取った対価を契約負債として繰り延べ、サービス期間に売上計上する場合があります。「保証」という名称だけで、すべて製品保証引当金ではありません。
工事損失引当金
建設工事や受注制作ソフトウェアなどで、契約から損失が見込まれ、金額を合理的に見積もれる場合に計上します。契約収益100億円に対し、総原価が115億円と見込まれる架空例なら、契約全体の損失見込15億円のうち、すでに損益へ反映された部分を除いた必要額を引き当てます。
資材価格、労務費、外注費、工期遅延、違約金、為替、設計変更が見積原価を動かします。受注残が増えても、採算の悪い契約が多ければ将来利益は増えません。会社別に、工事損失引当金残高と売上高・受注残の比率を追います。
訴訟・損害補償・債務保証
訴訟では、原因となった行為、弁護士の見解、判例、和解交渉、請求額、保険による回収可能性を基に見積もります。請求額がそのまま引当額とは限りません。敗訴・和解の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる範囲を計上します。
子会社や取引先の借入を保証している場合、主たる債務者の財政状態が悪化し、保証履行による損失が見込まれれば債務保証損失引当金を検討します。保証総額、担保、求償権の回収可能性を分けます。
修繕・特別修繕引当金
定期的な大規模修繕など、当期までの使用に対応する将来修繕費を見積もる場合があります。ただし、将来設備を使い続けるための任意の修繕で、決算日時点に現在の負担がないなら引当金にできるとは限りません。法令・契約、修繕周期、使用実績、撤回可能性を確認します。
返品・ポイント・リベート
顧客への返品権、販売数量に応じたリベート、ポイント制度は、現在の収益認識基準により売上の減額、返金負債、契約負債などとして処理される場合があります。古い引当金の名称だけで理解せず、顧客との契約に関する会計基準が優先されるか確認します。
貸倒引当金・資産除去債務・退職給付との違い
決算書には「引当金」と名の付く項目や、将来支出を見積もる似た負債が複数あります。すべてを企業会計原則注解18だけで扱うわけではありません。
貸倒引当金は債権の評価勘定
貸倒引当金は、売掛金や貸付金などの金銭債権について、将来顕在化する貸倒損失のうち、期末までに原因が発生している見込額を計上します。負債性引当金とは異なり、債権から控除する評価勘定です。
日本基準では、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分し、過去の貸倒実績率や債務者ごとの回収可能性で見積もります。売掛金100億円、貸倒引当金3億円なら、貸借対照表上の正味債権は97億円です。
売掛金100億円 - 貸倒引当金3億円 = 正味97億円
IFRSでは金融資産の減損はIAS 37ではなくIFRS 9の予想信用損失モデルで扱います。一般の引当金と貸倒引当金を同じ発生確率や測定ルールで比較しません。
資産除去債務は個別基準の対象
工場、店舗、賃借設備などを将来除去し、原状回復する法令・契約上の義務は、資産除去債務に関する会計基準の対象です。義務が発生した時に、将来キャッシュフローを割引いた金額で負債計上し、同額を関連する有形固定資産の取得原価へ加えます。
その後、資産側は減価償却し、負債側は時の経過による調整額を費用計上します。単に将来の撤去費用を毎年少しずつ引当金へ積む方法とは異なります。長期の店舗賃貸が多い小売業、鉱山、発電、石油・ガス、化学などでは重要な負債になることがあります。
退職給付は専用の会計基準で計算する
従業員の退職金・年金は、退職給付に関する会計基準により、退職給付債務、年金資産、数理計算上の差異などを計算します。財務諸表に「退職給付引当金」や「退職給付に係る負債」と表示されることはありますが、単純な将来支給額ではありません。
割引率、昇給率、退職率、死亡率、年金資産の運用実績などで金額が動きます。一般の賞与引当金と同じ感覚で残高だけを比べず、制度内容と感応度を確認します。
偶発債務は原則として負債計上されない
偶発債務は、将来の不確実な事象によって存在が確認される可能性のある義務や、現在の義務でも支出可能性・見積可能性の条件を満たさず認識されないものです。重要であれば、訴訟、保証、追加課税などの内容と金額を注記します。
引当金がゼロだからリスクがゼロとは限りません。貸借対照表に載らない偶発債務の注記、訴訟一覧、税務調査、規制当局との協議を確認します。
見積額・割引率・保険回収をどう扱うか
引当金は、決算日に義務を決済したり第三者へ移転したりするために合理的に支払う金額を見積もります。最悪ケースを無条件に計上するのでも、経営陣の希望的な最小額を置くのでもありません。
見積りの主な方法は次のとおりです。
- 多数の同種義務:各結果を発生確率で加重した期待値
- 単独の義務:最も可能性の高い結果を出発点に、他の結果も考慮
- 範囲内の各金額が同程度に起こり得る場合:中間値など合理的な代表値
- 法令や契約で上限・下限がある場合:その条件を反映
- 将来の技術改善や価格変動:十分な客観的証拠がある範囲で反映
売却益など、義務の履行と関係のない将来利益を引当額から差し引きません。例えば工場閉鎖で土地売却益が見込まれても、原状回復義務の測定とは分けます。
割引現在価値
IFRSのIAS 37では、貨幣の時間価値の影響が重要な場合、予想支出を現在価値へ割り引きます。10年後の100億円と翌月の100億円は、決算日時点の負担が同じではないからです。時の経過により割引が巻き戻ると、引当金が増え、財務費用として認識されます。
日本基準には、すべての引当金へ一律に割引計算を要求する包括的基準はありません。資産除去債務や退職給付など個別基準では現在価値計算があります。会社間比較では、引当金の測定方針、支出時期、割引の有無を注記で確認します。
保険金や第三者からの補償
製品事故や訴訟損失を保険で回収できる場合でも、引当金と保険回収を安易に相殺しません。IFRSでは、支出の一部または全部が第三者から補填されるとき、補填を受けることがほぼ確実なら別個の資産として認識し、その額は引当金を超えません。
保険には免責額、支払上限、対象外事由、保険会社との争いがあります。「保険で全額賄える予定」という説明だけで、会社の資金負担がないと判断しません。支払いが先、保険回収が後になる時間差もあります。
日本基準とIFRS(IAS 37)の違い
日本基準は企業会計原則注解18と個別基準を組み合わせます。IFRSはIAS 37が、金額または時期が不確実な負債である引当金、偶発債務、偶発資産を包括的に扱います。
| 論点 | 日本基準 | IFRS(IAS 37) |
|---|---|---|
| 基本要件 | 将来の特定費用・損失、当期以前の原因、高い発生可能性、合理的見積り | 過去事象による現在義務、資源流出が蓋然的、信頼性ある見積り |
| 義務の範囲 | 費用・損失の引当てを中心に判断 | 法的義務に加え推定的義務を明示 |
| 測定 | 個別基準がある項目はその定め、その他は合理的見積り | 決算日に義務を決済・移転する最善の見積り |
| 割引 | 全引当金への一律要求はなく、個別基準を確認 | 時間価値の影響が重要なら現在価値 |
| 将来営業損失 | 四要件を満たさず通常計上不可 | 引当金を計上不可 |
| 不利な契約 | 工事損失など個別規定、その他は注解18を検討 | 回避不能原価が便益を超える契約に引当金 |
| 事業再編 | 四要件に沿って判断 | 詳細計画を影響対象者へ公表し推定的義務が生じた場合などに限定 |
| 偶発債務 | 重要なものを注記 | 流出可能性が僅少でない限り注記 |
推定的義務
IFRSの推定的義務とは、法律や契約に明記されていなくても、過去の慣行、公表した方針、十分に具体的な声明によって、会社が責任を果たすという妥当な期待を他者に生じさせた義務です。
例えば、法的義務がなくても、汚染した土地を必ず浄化してきた企業が同様の方針を公表し、地域社会に履行期待を生じさせている場合です。ただし「2050年に環境対応する」と一般的に宣言しただけで、将来の設備改修費すべてを直ちに引き当てるわけではありません。決算日までに義務を生じさせる過去事象が必要です。
不利な契約
IFRSでは、契約上の義務を履行する回避不能原価が、契約から得られる経済的便益を上回る不利な契約に引当金を計上します。違約金を払って解約する費用と、契約を履行する正味原価のうち、通常は小さい方が回避不能原価の基礎になります。
日本基準では工事損失引当金に具体的な定めがありますが、その他の顧客契約の損失は企業会計原則注解18で計上要否を判断します。IFRS会社と日本基準会社で、同じ赤字契約が同じ時点・同じ額で認識されるとは限りません。
事業再編引当金
IFRSでは、工場閉鎖、人員削減、事業撤退などの再編計画を社内で決めただけでは引当金を計上しません。対象事業、場所、人数、支出などを示す詳細で正式な計画があり、実行開始または影響を受ける関係者への公表によって、会社が実行するという妥当な期待を生じさせる必要があります。
再編引当金に含めるのは、再編に直接伴い、継続事業と関連しない支出です。将来の従業員研修、広告、新システム投資、移転後の営業損失は、将来事業の費用であり通常含めません。
なお、IASBはIAS 37の認識・測定・割引率などを対象にした改訂プロジェクトを進めています。2026年7月時点では審議中の提案であり、確定した現行基準と混同しません。IFRS会社の分析では、基準改訂の最終内容と適用時期を今後確認する必要があります。
引当金が利益・資産・キャッシュフロー・税金へ与える影響
引当金の新規繰入れ・追加繰入れは費用または損失となり、税引前利益を減らします。製品保証費や賞与は営業費用、巨額訴訟や事業再編は性質に応じた科目へ表示されます。営業利益か特別損益かは、引当金の名称だけでなく、適用基準と会社の表示方針を確認します。
貸借対照表では、負債性引当金は流動負債または固定負債を増やし、自己資本を間接的に減らします。貸倒引当金は資産の控除項目です。負債と資産控除を混ぜると、負債比率や運転資本の分析を誤ります。
キャッシュフロー
引当金繰入れは計上時に現金支出を伴わないため、間接法の営業キャッシュフローでは、純利益から出発する際に非現金費用として調整されます。後に賞与、修理費、和解金などを支払うと現金が減ります。
| 時点 | 利益 | 引当金 | 現金 |
|---|---|---|---|
| 繰入時 | 減る | 増える | 変わらない |
| 支払時 | 原則、見積済み部分は変わらない | 減る | 減る |
| 戻入時 | 増える | 減る | 変わらない |
「引当金繰入れで営業CFが利益を上回った」場合、その差は自由に使える恒久的な現金とは限りません。将来支払いの先送りです。フリーキャッシュフローを評価するときは、引当金残高のうち今後何年で現金化するかを見積もります。
税務と税効果会計
会計上の引当金を計上しても、法人税法上すべてが同じ期に損金になるわけではありません。税務は項目ごとに損金算入要件を定めています。例えば使用人賞与は、通知・支払期限・損金経理など一定の条件を満たす場合を除き、実際の支給時期に損金算入されることがあります。貸倒引当金も対象法人・対象債権・限度額などの要件があります。
会計費用が税務上まだ損金にならない場合、将来減算一時差異が生じ、回収可能性が認められる範囲で繰延税金資産を計上します。引当金100億円、税率30%という単純な架空例では、将来損金化できることが十分見込まれるなら、税効果は最大30億円です。
100億円 × 30% = 30億円
ただし、将来の課税所得が不足する会社では、繰延税金資産を全額認識できない場合があります。「引当金が増えたから税金が同時に減る」とは限りません。実効税率、税効果会計の注記、評価性引当額を確認します。
決算で引当金を分析する手順と危険なサイン
引当金は残高だけでなく、期首から期末までの増減表を読みます。IFRSの注記では、期首残高、追加繰入れ、目的使用、未使用額の戻入れ、割引の時の経過、為替・企業結合などの変動が種類別に開示されることがあります。日本基準でも重要な会計上の見積り、個別注記、附属明細表などから変動を追えます。
基本式は次のとおりです。
期末残高 = 期首残高 + 当期繰入れ - 目的使用 - 戻入れ ± その他変動
架空例で、期首残高80億円、当期繰入れ50億円、目的使用30億円、戻入れ10億円なら、期末残高は90億円です。
80 + 50 - 30 - 10 = 90億円
分析手順は次のとおりです。
- 種類を分ける:賞与、保証、工事損失、訴訟、再編、貸倒など
- 残高と損益をつなぐ:当期繰入れ・戻入れがどの利益段階へ出たか
- 目的使用を確認する:過去の見積りが実際の支払いへどう変わったか
- 売上・契約規模で割る:保証引当金/対象売上、工事損失/受注残など
- 3~5年追う:毎年の見積誤差と方向性を確認する
- 会計方針を読む:発生率、単価、割引率、支払時期、外部専門家の利用
- 偶発債務を併読する:未計上リスクが引当金へ移る可能性を見る
- 現金支出を予測する:支払予定と現預金・借入余力を比べる
危険なサイン1:毎年大きな戻入益が出る
実績改善による戻入れは正常ですが、毎年繰入れ後に多額の未使用額を戻すなら、当初見積りが保守的すぎる可能性があります。業績の良い年に多く積み、悪い年に戻して利益を平準化していないか確認します。
危険なサイン2:残高が売上や対象台数より速く減る
販売台数や保証対象製品が増えているのに製品保証引当金率が急低下した場合、品質改善か、見積り前提の変更かを確認します。保証期間、部品単価、故障率の変化が説明されているかが重要です。
危険なサイン3:一度限りの調整が繰り返される
再編費用、訴訟、契約損失を毎年「一時的」として調整後利益から除外する会社は、通常の事業運営にそのコストが組み込まれている可能性があります。過去5年の調整項目を合計し、現金支出も含めて評価します。
危険なサイン4:引当金は小さいが偶発債務が大きい
会社が敗訴可能性を高いとは判断していない、または金額を合理的に見積もれないため、巨額請求が注記だけにある場合があります。請求額をそのまま損失とみなすのも誤りですが、ゼロとみなすのも危険です。強気・標準・弱気のシナリオへ分けます。
危険なサイン5:経営指標から引当金費用を常に除外する
調整後利益から引当金繰入れを除外するとき、戻入益も同じ基準で除外しているか確認します。損失だけ除き、戻入益を含めれば利益が過大になります。製品保証や貸倒れが事業に反復して発生するなら、通常費用として評価する方が実態に近くなります。
| 記録項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 期首・期末残高 | 絶対額、売上・債権・受注残に対する比率 |
| 当期繰入れ | 新規発生、見積変更、企業結合の影響 |
| 目的使用 | 実際の支払額と過去見積りの対応 |
| 戻入れ | 発生理由、損益区分、反復性 |
| 測定前提 | 発生率、単価、割引率、支払期間 |
| 補償 | 保険、求償権、補助金の回収可能性 |
| 税効果 | 損金算入時期、繰延税金資産の回収可能性 |
| 未計上リスク | 偶発債務、訴訟、保証、税務調査 |
引当金の増加を見たら、まず「悪材料が発生した」のか「以前からあったリスクを保守的に認識した」のかを分けます。引当金計上で短期利益は減りますが、損失見込みを早めに開示し、資金計画を示す会社は透明性が高いとも考えられます。反対に計上を遅らせれば、将来一度に損失が出る可能性があります。
まとめ
- 引当金は、将来の特定費用・損失を、原因が生じた当期の費用または損失へ反映する会計項目
- 日本基準では、将来の特定費用・損失、当期以前の原因、高い発生可能性、合理的見積りという四要件で判断する
- 繰入時は利益が減るが現金は原則減らず、目的使用時に引当金と現金が減る
- 賞与、製品保証、工事損失、訴訟、債務保証など、種類によって算定根拠と損益区分が違う
- 貸倒引当金は債権の評価勘定で、資産除去債務や退職給付には個別の会計基準がある
- 引当金を計上できない重要リスクは、偶発債務として注記される場合がある
- IFRSは法的義務だけでなく推定的義務も対象にし、時間価値が重要なら現在価値へ割り引く
- 事業再編や将来営業損失は、経営計画があるだけでは引当金にできない
- 会計上の繰入額と税務上の損金算入額は一致せず、税効果会計が生じる場合がある
- 期末残高だけでなく、繰入れ、目的使用、戻入れ、見積り前提を3~5年追う
引当金は、まだ支払っていない将来負担を現在の決算へ写すため、経営判断と見積りが大きく入り込む項目です。残高が多いか少ないかだけではなく、どの事象から生じ、いつ現金化し、過去の見積りがどれほど正確だったかを追うと、利益の質と潜在リスクが見えてきます。
よくある質問
Q. 引当金は負債ですか?
製品保証引当金や賞与引当金などは、通常、流動負債または固定負債へ表示されます。一方、貸倒引当金は売掛金や貸付金から差し引く資産の評価勘定です。名称に「引当金」があっても、貸借対照表上の場所を確認します。
Q. 引当金を計上すると現金は減りますか?
繰入時は会計上の費用と引当金を計上するため、通常は現金が減りません。後日、賞与、修理費、和解金などを支払う時に現金が減ります。利益への影響と資金支出の時期がずれるのが特徴です。
Q. 引当金の戻入れは利益になりますか?
不要になった引当金を戻すと、その期の利益を増やします。ただし、どの損益科目へ表示するかは引当金の性質や会計方針によります。毎年大きな戻入れがある場合は、当初見積りが過大でなかったか確認します。
Q. 引当金と準備金は同じですか?
同じではありません。引当金は将来の特定費用・損失を見積もって費用計上するものです。準備金には、法令・税制・利益処分などに基づくものがあり、純資産に表示される利益準備金や、税務上の準備金など性質が異なります。
Q. 引当金はどこで確認できますか?
貸借対照表、重要な会計方針、会計上の見積り、引当金明細、偶発債務の注記を確認します。決算説明資料に計上理由があれば併読し、過去の繰入れ・目的使用・戻入れまで追います。利益指標の基本は株価指標の見方、巨額損失の確認は減損リスクの見方も参考になります。
出典・参考資料
- 企業会計基準委員会「企業会計原則・企業会計原則注解」
- 企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準の適用指針」
- 企業会計基準委員会「金融商品会計に関する実務指針」
- 企業会計基準委員会「資産除去債務に関する会計基準」
- IFRS Foundation「IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets」
- IFRS Foundation「IFRS 9 Financial Instruments」
- IFRS Foundation「Provisions―Targeted Improvements」
- 国税庁「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」
※本記事は2026年7月時点の公表資料を基にした一般的な解説です。引当金の認識・測定・表示と税務上の損金算入は、契約、事実関係、適用基準によって異なります。実際の処理は最新の基準・法令と専門家の助言を確認してください。
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