日本株

宇宙関連3社を比較|ispace・QPSホールディングス・Synspectiveの違い

宇宙関連株3社の違いを、月面輸送とSAR地球観測、衛星数、契約、売上計上、設備投資、資金調達から比較します。ispace・QPSホールディングス・Synspectiveの決算で見るべきKPIと固有リスクも解説します。

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日本株の業界研究第18回/全19回
目次12項目
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ispace、QPSホールディングス、Synspectiveは「宇宙関連株」として並べられますが、同じ市場で同じ商品を売る3社ではありません。ispaceは月着陸船による月面輸送と月面データサービスを開発する会社です。QPSホールディングスとSynspectiveは、レーダーを搭載した小型衛星で地球を観測し、画像データや解析サービスを提供する会社です。

 さらに、2026年7月時点では上場主体にも注意が必要です。旧上場会社のQPS研究所は2025年11月に上場を終了し、同年12月1日に純粋持株会社のQPSホールディングスが証券コード464Aで上場しました。宇宙事業を行うQPS研究所は、その完全子会社です。本記事では株式として比較するときは「QPSホールディングス」、衛星開発・運用の主体を説明するときは「QPS研究所」と書き分けます。

 3社はいずれも投資先行で、打上げ、機体開発、衛星製造、地上局、研究開発に多額の資金を必要とします。一般的な成熟企業のPERだけでは比較しにくいため、技術実証、商用運用機数、契約、売上計上、営業キャッシュフロー、増資後の株式数まで確認する必要があります。決算三表の基礎は決算書の読み方、赤字企業を含む株価評価の考え方はROE・EPS・PER・PBRの見方も参考になります。

比較項目ispaceQPSホールディングスSynspective
主な活動領域月・月周回地球低軌道地球低軌道
中核機体月着陸船ULTRA、将来の月周回衛星小型SAR衛星QPS-SAR小型SAR衛星StriX
主な提供価値月までのペイロード輸送、月面データ、通信・測位構想SAR画像・観測データ、関連サービスSAR画像・観測データ、解析ソリューション
顧客の例宇宙機関、研究機関、企業、協賛企業官公庁、民間企業、データ利用企業官公庁、民間企業、海外データ事業者
売上の単位ミッション・契約マイルストーン撮像、データ、契約期間撮像、データ、解析サービス、契約期間
設備の特徴1回ごとのランダー開発・打上げ負担が大きい複数衛星の製造・打上げ・地上局複数衛星と量産工場・解析基盤
最重要リスク月面着陸の成否と計画変更衛星投入速度、故障、資金調達衛星投入速度、契約履行、解析事業の採算

※2026年7月時点の公式開示に基づく整理です。「打上げた衛星数」と「商用運用中の衛星数」は一致しないため、最新の運用状況は各社IRで確認してください。

【基礎編】月面輸送とSAR地球観測は別の事業

① ispaceは地球を撮る会社ではない

 ispaceは、顧客の機器や物資をランダーに載せて月まで運ぶペイロードサービス、月面や航行中に取得するデータの提供、将来の通信・測位サービスなどを事業化しようとしています。飛行機の貨物輸送に近い面がありますが、現段階では毎月繰り返す定期便ではなく、数年をかけて一つのミッションを開発する段階です。

 そのため、ある年度に受注が増えても、その全額がすぐ売上になるとは限りません。契約上の条件、開発進捗、打上げ、航行、月面運用などの節目に応じて収益を認識します。計画変更や顧客契約の改定があれば、売上時期や原価も動きます。

② QPS研究所とSynspectiveは地球を繰り返し観測する

 QPS研究所とSynspectiveが使うSARは「Synthetic Aperture Radar」、日本語では合成開口レーダーです。衛星からマイクロ波を地表へ照射し、反射した信号を解析して地表の形や変化を捉えます。

 可視光カメラは雲や夜間に弱い一方、SARは雲を透過し、昼夜を問わず観測できることが大きな利点です。災害発生時の浸水・土砂変化、船舶や車両、インフラ変位、安全保障など、撮影時刻を選びにくい用途と相性があります。ただし、SAR画像は写真と同じ見た目ではなく、用途に応じた補正や解析が必要です。

③ 衛星を増やす目的は観測頻度を上げること

 一つの衛星は地球を周回しているため、いつでも同じ場所の真上にいるわけではありません。複数の衛星を異なる軌道へ配置する「コンステレーション」を構築すると、同じ地域へ戻ってくるまでの時間を短縮できます。

 ただし、衛星数が2倍になれば売上も自動的に2倍になるわけではありません。顧客注文を獲得し、希望地点を撮像し、地上局へ送信し、画像処理を行い、期限内に納品して初めて売上につながります。衛星製造能力、打上げ枠、軌道、地上局、データ処理、営業力がそろう必要があります。

【収益編】宇宙企業の売上をどう読むか

① 受注、契約総額、売上高は同じではない

 宇宙関連企業では、大型契約の発表が株価材料になりやすい一方、発表金額がその年度の売上高になるとは限りません。複数年契約なら事業期間にわたって履行し、検収や撮像実績に応じて売上を計上することがあります。共同事業の総額と、その会社が受け取る金額も別です。

 たとえば2026年2月に公表された防衛省の衛星コンステレーション事業は、防衛省と特別目的会社の契約総額が2,831億円とされています。しかし、この全額がQPS研究所やSynspectiveの売上になるわけではありません。Synspectiveは自社が関係する画像データ取得業務の契約金額を別に開示していますが、QPS研究所の個別受取額は同じ開示方法ではありません。総事業費、元請契約、各社の契約、会計上の売上を分けて読む必要があります。

② ispaceはミッションごとの採算を見る

 ispaceでは、ペイロード輸送契約、パートナー契約、開発契約などによる売上に加え、政府の補助金が重要な資金源になっています。会社は会計上の売上高と補助金収入などを合わせた「プロジェクト収益」という独自指標も示しています。

 プロジェクト収益は事業全体へ入る資金を見るうえで参考になりますが、会計上の売上高や営業利益と同じではありません。補助金が営業外収益に計上される場合、営業損失が大きくても最終損失が一部補われます。比較するときは、売上高、営業損益、補助金、開発原価、営業キャッシュフローを別々に確認します。

③ SAR企業はデータの反復販売が鍵になる

 SAR衛星は軌道上で繰り返し撮像できるため、一度打ち上げた後にデータを何度も販売できる可能性があります。特定地点を顧客の依頼で撮るタスキング、既に取得したアーカイブ画像、継続監視、解析済み情報など、販売方法は複数あります。

 同じ画像を複数顧客へ提供できる場合は限界利益が高くなり得ますが、機密性の高い契約では再販売できない場合があります。衛星の減価償却、地上局、通信、クラウド処理、保険、運用人員も必要です。「データだから原価ゼロ」と考えないことが大切です。

④ 売上の質は継続性と顧客集中で判断する

 単発の実証契約が増えているのか、毎月・毎年利用される商用契約が増えているのかで売上の質が違います。官公庁の大型契約は長期収入につながる可能性がある一方、顧客集中、予算変更、検収条件、契約終了時の反動があります。

 民間利用では、災害、保険、インフラ、農業、海洋、資源、安全保障など用途を分散できるかが重要です。実証実験の件数ではなく、有償化、更新、利用量の増加まで追います。

【ispace編】月面着陸の技術と商業化を同時に進める

① ミッション1と2は月周回まで進んだが、軟着陸は未達

 ispaceは証券コード9348で東証グロース市場に上場しています。2023年のミッション1ではランダーが月周回軌道へ入り、着陸シーケンスを進めましたが、軟着陸には至りませんでした。会社の解析では、推定高度と実際の高度に差が生じ、燃料が尽きた後に自由落下したとされています。

 2025年のミッション2ではRESILIENCEランダーが打ち上げ、月フライバイ、月周回軌道投入、着陸前の軌道制御まで進みましたが、再び軟着陸は未達でした。2026年3月、会社は第三者専門家による改善タスクフォースの検討結果を公表し、地形相対航法、試験体制、システム安全、意思決定など複数階層の改善を進めています。

 投資家が確認すべきなのは、単に「失敗した」「次は成功する」という二択ではありません。月周回までの航行・通信・姿勢制御で何が実証され、着陸系で何が未成熟か、次の機体で設計・試験・組織がどう変わるかを分けます。

② 2026年にランダーとミッション番号を再編

 ispaceは2026年3月、日本と米国で別々に開発していたシリーズ3ランダーとAPEX 1.0の特徴を統合し、新型ランダー「ULTRA」を発表しました。エンジンも変更し、ミッション番号と予定を組み替えています。

 2026年5月時点の会社計画では、次の月着陸ミッションとなる新ミッション3を2028年、新ミッション4を2029年、米国主導の新ミッション5を2030年に予定しています。月周回通信・測位を目指す新ミッション2.5は最速2027年とされています。ただし、補助事業の計画変更やNASAの承認が必要な案件を含み、予定は今後も変わる可能性があります。

 旧資料に書かれた「ミッション3」「ミッション4」と現在の番号は中身が違います。決算説明資料を読むときは発表日を確認し、旧番号と新番号を対応させます。

③ 1回の計画変更が複数年度の損益へ届く

 月着陸船は、設計、部材調達、組立、環境試験、打上げ、航行、着陸まで長期間を要します。エンジンや機体モデルを変更すると、既に支払った開発費・前渡金の回収可能性、顧客契約、補助金計画、打上げ予約を見直す必要があります。

 2026年3月期の会社発表でも、エンジン変更とスケジュール変更に伴う損失、翌期に予定するランダーモデル統合の影響が示されています。売上高の前年比だけでなく、変更損失、減損、前渡金、補助金、有利子負債、増資を追う必要があります。

④ ispaceで確認するKPI

  • ミッションごとの設計審査、環境試験、打上げ、航行、着陸マイルストーン
  • 旧計画からのスケジュール変更と追加原価
  • ペイロード契約の最終契約化、前受金、契約変更
  • 会計上の売上高と会社独自のプロジェクト収益の差
  • 補助金の対象経費、受領条件、入金時期
  • 前渡金、研究開発費、営業キャッシュフロー
  • 現預金、有利子負債、増資、潜在株式数
  • ULTRAの積載能力だけでなく、試験・着陸実績

【QPS編】小型SAR衛星を増やし、観測頻度を高める

① 現在の上場会社はQPSホールディングス

 QPS研究所は2005年に福岡で設立され、2023年に証券コード5595で上場しました。その後、2025年11月27日にQPS研究所株式の上場を終了し、12月1日にQPSホールディングスが証券コード464Aでテクニカル上場しました。株式移転比率は1対1で、QPS研究所は持株会社の完全子会社です。

 したがって、2025年までの決算資料はQPS研究所単体、持株会社化後はQPSホールディングス連結という違いがあります。持株会社自体は純粋持株会社なので事業の中心は引き続きQPS研究所ですが、年度比較では会計主体と連結開始時期を確認します。

② 九州を中心とする開発・製造ネットワーク

 QPS研究所は小型SAR衛星QPS-SARを開発・製造・運用し、取得した画像データの販売やサービス提供を行います。社名のQPSは「Q-shu Pioneers of Space」に由来し、九州大学で蓄積された小型衛星技術と、九州を中心とする企業ネットワークを基盤にしています。

 大型SAR衛星を小型・低コスト化し、多数機を配備することで観測頻度を上げる戦略です。衛星本体だけでなく、展開式アンテナ、地上局、軌道運用、画像処理を連動させる必要があります。

③ 「打上げ成功」と「商用運用」を分ける

 会社は2026年1月時点で商用運用機数を9機と説明していました。その後も打上げを進め、2026年7月にはQPS-SAR13号機の打上げを公表しています。ただし、機体番号は累計開発順を示し、現在の商用運用機数と同じではありません。

 ロケットから予定軌道へ投入された後も、衛星との通信確立、アンテナ展開、姿勢制御、初画像取得、画質評価、商用運用開始という段階があります。過去には通信系統の不具合から商用運用を停止し、復旧後に再開した機体もあります。ニュース見出しの「打上げ成功」だけで能力増加を確定しないことが重要です。

④ 36機構想と資金需要

 QPS研究所は2030年に36機のQPS-SARによるコンステレーションを構築し、準リアルタイム観測データを提供する目標を掲げています。衛星を増やすには、製造費、打上げ費、保険、地上局、運用人員、データ処理へ継続投資が必要です。

 QPSホールディングスは2026年に衛星コンステレーション構築資金を目的とする借入や増資を実施しています。資金調達により打上げを前倒しできれば事業価値の向上要因になり得ますが、利息負担と株式希薄化も生じます。調達額だけでなく、1機当たり投資、打上げ数、商用運用開始、売上増加へつながったかを追います。

⑤ QPSホールディングスで確認するKPI

  • 打上げ機数、軌道投入、アンテナ展開、初画像、商用運用開始の各段階
  • 商用運用機数と故障・復旧状況
  • 1機当たり製造期間と打上げ間隔
  • 撮像件数、観測頻度、データ納期、利用率
  • 官公庁・民間、国内・海外の売上構成
  • 契約残高と当期売上への転換
  • 衛星・地上設備の減価償却と営業キャッシュフロー
  • 借入、金利、増資後株式数、資金使途の進捗

【Synspective編】SARデータから解析ソリューションまで展開

① 小型SAR衛星StriXと解析事業

 Synspectiveは2018年に設立され、2024年12月に証券コード290Aで東証グロース市場へ上場しました。政府のImPACTプログラムで開発された技術を継承し、小型SAR衛星StriXの開発・製造・運用、SARデータ販売、解析ソリューションを展開しています。

 自社データを販売するだけでなく、他社衛星、地図、IoTなどのデータを組み合わせ、顧客が意思決定に使いやすい情報へ加工する点を前面に出しています。地盤変動、災害、森林、洋上風力、物体検知など、利用目的ごとにサービスを作る戦略です。

② 量産工場と30機構想

 Synspectiveは神奈川県大和市のヤマトテクノロジーセンターを小型SAR衛星の量産拠点として本格稼働させています。2020年代後半に30機の衛星群を構築し、世界各地を高頻度で観測する目標を掲げています。

 2026年6月には自社10機目となる衛星の軌道投入とアンテナ展開成功を公表しました。ただし、QPS研究所と同様、10機すべてが同時に商用運用中であることを意味しません。試験、初画像、商用化、設計寿命を区別します。

 自社工場は製造速度と品質管理を高める可能性がありますが、設備、人員、部材在庫という固定費も抱えます。計画どおりの生産量に達しない場合、1機当たりコストが下がらないリスクがあります。

③ データ販売とソリューションの採算は別に見る

 SARデータ販売は、自社衛星で取得した画像を政府・企業・データ事業者へ提供する事業です。解析ソリューションは、そのデータを顧客の業務課題に合わせて加工する事業です。

 解析サービスは顧客との関係を深め、単純な画像価格競争を避ける効果が期待できます。一方、案件ごとの個別開発や専門人材が多いと、売上が伸びても利益率が上がりにくい場合があります。標準化されたクラウドサービスとして反復販売できるか、個別受託の比率が高いかを確認します。

④ 大型契約と海外販売網

 Synspectiveは2026年2月、防衛省の衛星コンステレーション事業に関して、同社が関係する画像データ取得業務の契約金額を1,056億円、事業期間を2026年2月から2031年3月までと公表しました。大型の複数年契約は収益基盤になり得ますが、売上計上は履行や会計処理に応じるため、契約額を一括で当期売上へ足してはいけません。

 また、Airbus Defence and Space、海外のデータプラットフォーム、地上局事業者などとの提携を進めています。提携数より、実際のデータ注文、最低購入義務、販売手数料、地域別売上へつながったかを確認します。

⑤ Synspectiveで確認するKPI

  • 打上げ、軌道投入、アンテナ展開、初画像、商用運用の各段階
  • 商用運用機数、撮像能力、利用率、データ納期
  • 量産工場の年間生産能力と実際の完成機数
  • SARデータ売上と解析ソリューション売上の構成
  • 官公庁大型契約の履行義務、売上計上、原価
  • 海外パートナー経由の受注と地域別売上
  • 衛星・工場・ソフトウェアへの投資と減価償却
  • 現預金、営業キャッシュフロー、増資後の株式数

【比較編】QPS研究所とSynspectiveは何が違うのか

① 共通点は自社SAR衛星を増やすこと

 両社とも、小型SAR衛星を自ら開発・運用し、複数機のコンステレーションで観測頻度を高めようとしています。官公庁・安全保障、防災、インフラ、民間利用を対象とし、2026年開始の防衛省事業にも協力企業として参加します。

 したがって、単純に「QPSは衛星、Synspectiveはデータ」という分け方は正確ではありません。QPS研究所もデータ・サービス事業を行い、Synspectiveも衛星を開発・製造します。

② QPSは衛星技術と高頻度観測、Synspectiveは解析までを強く訴求

 QPS研究所は、軽量な展開式アンテナを含む小型SAR衛星技術、九州の製造ネットワーク、多数機による準リアルタイム観測を中心に説明しています。SynspectiveはStriXデータに加え、顧客課題に合わせた解析ソリューション、海外販売網、自社量産工場を強く打ち出しています。

 これは現時点の事業上の重点であり、将来も固定されるとは限りません。両社が衛星数を増やし、データが豊富になるほど、販売、解析、業務組込みの競争が重要になります。

③ 比較は衛星数だけで終わらせない

確認軸確認する質問
製造年間何機を安定した品質で完成できるか
打上げロケット枠は確保済みか、延期時の代替手段はあるか
運用何機が商用運用中で、故障・寿命はどうか
撮像顧客希望地点を期限内に撮れるか
地上系データを速く受信・処理・納品できるか
営業実証から継続有償契約へ移行しているか
採算データ売上が減価償却・運用費を上回るか
資金次の資金調達までに計画をどこまで実行できるか

【財務編】赤字の宇宙企業を分析する方法

① PERが計算できないときは事業段階を確認する

 純損失の会社はPERを通常の意味で計算できません。そこで株価売上高倍率などが使われることがありますが、売上高が小さく年度変動も大きい段階では、倍率だけで割安・割高を断定できません。

 先に、技術実証、商用運用、受注、量産、利益化のどこにいるかを確認します。将来売上の仮定を置く場合は、衛星数だけでなく、1機当たり撮像能力、利用率、単価、契約期間、原価まで明示します。

② キャッシュ・ランウェイを確認する

 現預金を月平均の資金流出で割ると、単純な資金余力の目安を作れます。たとえば現預金120億円、年間の営業・投資キャッシュフロー合計が60億円の流出なら、他条件が同じという単純仮定では約2年分です。

 実際には、衛星製造と打上げの支払時期、補助金入金、顧客前受金、借入返済で月ごとの流出が大きく変わります。過去1年の平均だけでなく、次の12~24か月の打上げ計画と契約済み支払を並べます。

③ 増資は資金と希薄化の両方を見る

 成長投資のための増資は、衛星やランダーの開発を進める資金になります。一方、発行株式数が増えれば、将来利益が同じ場合の1株当たり利益は小さくなります。新株予約権やストックオプションも潜在株式です。

 増資を評価するときは、調達額、発行価格、株式数増加率、資金使途、計画の達成状況を確認します。「資金調達に成功した」だけでも「希薄化したから悪い」だけでも不十分です。1株当たりで増えた事業価値が希薄化を上回るかを考えます。

④ 補助金と顧客売上を区別する

 政府支援は、技術開発と民間投資を促す重要な資金です。しかし補助金は永続する顧客売上と同じではなく、対象経費、達成条件、受領時期があります。補助期間終了後に自力のデータ販売・輸送売上で維持費を賄えるかが商業化の基準になります。

⑤ 減価償却と減損を見る

 衛星や製造設備は、打上げ時または商用運用開始時など会社の会計方針に従って資産計上・償却されます。打上げ失敗、通信不能、設計変更、顧客契約の消滅があれば、資産や前渡金の減損が必要になる場合があります。

 営業キャッシュフローへ減価償却費を足し戻していても、次の衛星を作るための現金支出は続きます。減価償却前利益だけでなく、設備投資後のキャッシュフローを確認します。

【リスク編】3社に共通する7つの注意点

① 打上げロケットを自社で完全には管理できない

 衛星やランダーが完成しても、ロケット側の不具合、天候、他の搭載物、射場の都合で打上げが延期されます。相乗り打上げは費用を抑えられる一方、軌道と時期の自由度が下がる場合があります。

② 宇宙空間では簡単に修理できない

 打上げ後の機体へ人が行って部品交換することは通常できません。冗長系、地上からのソフトウェア更新、故障時の運用変更が重要です。1機の不具合が設計共通要因なら、後続機の改修と延期へ波及します。

③ 部材と人材が限られる

 放射線や温度変化に耐える部品、展開アンテナ、推進系、通信機器には長い納期があります。宇宙機の設計・試験・運用経験を持つ人材も限られます。人員数の増加だけでなく、品質保証とプロジェクト管理が追いついているかを見ます。

④ 顧客が政府へ偏る可能性がある

 安全保障・防災はSARの大きな需要源で、月面開発も政府宇宙機関の計画と関係します。大型政府契約は安定性を高める一方、政策、予算、調達方式、輸出管理の変更を受けます。民間売上と海外顧客を育てられるかも確認します。

⑤ 計画変更が原価と信用へ影響する

 宇宙計画の延期は珍しくありませんが、延期の理由と回数が重要です。慎重な試験追加による延期なのか、基本設計・部材・資金・顧客契約に問題があるのかで意味が違います。旧計画を消さず、当初予定、変更日、新予定、追加費用を記録します。

⑥ 株価は成功確率の変化で大きく動く

 赤字・投資先行企業の価値は遠い将来の利益を前提にするため、打上げや契約のニュースで株価が大きく変動しやすくなります。技術成功がそのまま利益化を意味せず、大型契約がそのまま当期売上になるわけでもありません。

⑦ 技術と会計の言葉を混同しやすい

 「受注」「採択」「契約」「打上げ成功」「軌道投入」「初画像」「商用運用」「売上計上」は別の段階です。一つのニュースを見たら、どの段階が完了し、次に何が残っているかを確認します。

【実践編】決算・ニュースを読む15項目

  1. 現在の上場会社と事業子会社を確認する
  2. 旧ミッション番号・旧会社名から変更がないか確認する
  3. 打上げ予定と実績を一覧にする
  4. 打上げ後の通信・展開・初画像・商用運用を分ける
  5. 運用機数と設計寿命を確認する
  6. 受注・採択・契約総額・売上高を分ける
  7. 契約期間と履行義務を確認する
  8. 顧客前受金、補助金、借入、増資を分ける
  9. 研究開発費、衛星資産、前渡金、減価償却を見る
  10. 営業キャッシュフローと設備投資を確認する
  11. 顧客・政府案件・地域の集中度を見る
  12. 1機当たり製造期間と打上げ費を追う
  13. 株式数、新株予約権、1株当たり価値を更新する
  14. 成功・遅延・失敗の3シナリオを作る
  15. 次の決算で仮説を検証するKPIを一つ決める

 成功シナリオだけで現在株価を説明しないことが重要です。たとえば、衛星投入が計画どおり、半年遅延、1機喪失の3ケースを置き、それぞれの撮像能力、売上開始、追加資金を試算します。ispaceでは着陸成功だけでなく、計画変更と顧客契約の影響を含めます。

まとめ

  • ispaceは月面輸送・月面データ・将来の通信測位を開発し、QPS研究所とSynspectiveは小型SAR衛星で地球を観測する会社です
  • 現在の上場会社はQPS研究所ではなくQPSホールディングスで、QPS研究所は完全子会社です
  • ispaceは2026年に機体とミッション番号を再編し、次の月着陸ミッションを2028年に予定しています
  • QPS研究所は36機、Synspectiveは30機のコンステレーションを目標としていますが、打上げ数と商用運用機数は分けて確認します
  • QPS研究所とSynspectiveはともに衛星開発とデータ事業を行い、Synspectiveは解析ソリューションも強く打ち出しています
  • 大型契約の総額をその会社の当期売上とみなさず、個別契約、期間、履行、売上計上を確認します
  • 赤字の宇宙企業では、PERだけでなく現預金、資金流出、設備投資、増資、潜在株式数、次の資金調達時期が重要です

よくある質問

Q. ispaceとQPS研究所の違いは?

 ispaceは顧客の機器を月へ運ぶ月面輸送と月面データ事業を開発しています。QPS研究所は地球周回軌道の小型SAR衛星で地表を観測し、画像データやサービスを提供します。目的地も収益の単位も異なります。

Q. QPS研究所は上場廃止になったのですか?

 QPS研究所の旧株式は2025年11月に上場を終了しましたが、事業撤退ではありません。株式移転によりQPSホールディングスが2025年12月に証券コード464Aで上場し、QPS研究所を100%子会社にしています。

Q. QPS研究所とSynspectiveはどちらもSAR衛星ですか?

 両社とも自社の小型SAR衛星コンステレーションを構築し、全天候・昼夜観測データを提供します。QPS研究所はQPS-SARと準リアルタイム観測、SynspectiveはStriXデータに加えて解析ソリューションや海外販売網も強く訴求しています。

Q. 衛星数が多い会社ほど有利ですか?

 衛星数は観測頻度を高める重要な要素ですが、打上げただけでは売上になりません。商用運用機数、撮像利用率、地上局、処理速度、顧客契約、1機当たりコストまで確認する必要があります。

Q. 宇宙関連株を比較するとき最初に見る数字は?

 最初に現預金と今後2年程度の開発・打上げ計画を並べ、追加資金が必要になる時期を考えます。そのうえで、商用運用機数、契約の売上化、営業キャッシュフロー、増資後の株式数を確認します。

参考リンク(出典)