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貸株とは?貸株金利・配当金相当額・株主優待の注意点

貸株サービスの仕組みを、貸株金利の計算、配当金相当額の税金、株主優待・議決権、NISA、証券会社破綻時のリスクまで初心者向けに整理します。

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情報開示・株式売買第2回/全3回
目次12項目
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貸株とは、保有する株式を証券会社に貸し、対価として貸株金利を受け取るサービスです。株を売却せずに収入を得られる一方、貸出中は株式の所有権が移り、配当・株主優待・議決権・税金・資産保護の扱いが通常の保有と変わります。

 結論からいうと、貸株金利だけを見て申し込むのは危険です。特に確認したいのは、①年間の受取見込み、②配当金と配当金相当額の違い、③優待や長期保有判定、④証券会社の信用リスク、⑤NISA預りを含む対象口座です。2026年7月時点の公式資料をもとに、申し込み前の判断順序まで整理します。

比較項目通常の保護預り一般的な貸株サービス利用中
株式の状態証券会社に預けた顧客資産証券会社へ貸し出し、同種・同量の返還を受ける契約
貸株金利なし証券会社が提示する料率に応じて受け取る
配当発行会社から配当金を受け取る貸出中は証券会社から配当金相当額を受け取るのが一般的
株主優待・議決権基準日に株主なら取得できる貸出したままでは原則取得できない
税務配当所得として扱われる貸株金利・配当金相当額は原則として雑所得
分別管理法令上の分別管理の対象一般的な無担保型では分別管理の対象外
投資者保護基金一定条件で補償の仕組みあり一般的な貸株契約は補償対象外
NISA預り非課税保有が可能対象外とする証券会社があるため個別確認が必要

※証券会社には、通常の貸株とは別に担保を付けた商品や信用取引口座向けの商品もあります。上表は無担保の一般的な個人向け貸株サービスを示しており、最終的には利用する会社の契約書・取引ルールが優先されます。

【仕組み編】貸株とは何を貸しているのか

① 預けたままではなく、消費貸借契約を結ぶ

 貸株サービスでは、投資家が証券会社と株式の消費貸借契約を結びます。証券会社は借りた株式を市場参加者へ再び貸し出すなどして運用し、その収益の一部を貸株金利として投資家へ支払います。株券を一枚ずつ預けるイメージではなく、「同じ銘柄を同じ数量だけ返してもらう権利」を持つ取引と考えると分かりやすいでしょう。

 重要なのは、貸出中の株式の所有権が貸出先へ移ることです。通常の現物株保有では、証券会社は顧客の株式を自社資産と分けて管理します。一方、貸株中の投資家は、証券会社に対して株式の返還を求める立場になります。この法律上・契約上の違いが、株主権利や破綻時の扱いを変えます。

② 証券会社の先には株式を必要とする市場参加者がいる

 借り手が株式を必要とする理由は一つではありません。空売りの受渡し、取引の決済、裁定取引、マーケットメイクなど、証券市場では一定期間だけ株式を借りたい需要があります。たとえば空売りでは、先に借りた株式を市場で売り、後で同じ銘柄を買い戻して返します。

 個人投資家から見える契約相手は通常、申し込んだ証券会社です。その先の最終的な借り手を投資家が選ぶわけではありません。証券会社は貸出先の信用力を審査しますが、再貸出先の破綻が証券会社へ影響する可能性は残ります。「株を貸すだけ」という表示の裏側には、証券会社を介した株券貸借市場があるわけです。

③ 貸出中でも売却できる場合が多い

 一般的なネット証券の貸株サービスでは、貸出中の株式を通常どおり売却できます。売却が成立すると証券会社が返却処理を行うため、利用者が先に借り手を探したり、株式を回収したりする必要は通常ありません。ただし、金利が止まる日、返却設定が反映される日、移管や現渡しができる時期は証券会社ごとに異なります。

 「いつでも売れる」と「すべての手続きを即日できる」は同じではありません。TOBへ応募するため他社へ移管する、株主権利のため名義を戻す、貸株サービス自体を解約するといった場面では営業日数が必要です。予定がある場合は、権利付最終日や応募期限から逆算して動く必要があります。

【金利編】貸株金利はいくら受け取れるのか

① 基本式は時価×株数×年率÷365日

 貸株金利は、貸出数量、日々の株価、証券会社が提示する貸株料率を使って計算する方式が一般的です。マネックス証券の公式ルールでは、日々の貸株金利を次の式で計算しています。

日々の貸株金利=貸株数量×当該銘柄の時価×貸株料率÷365

 たとえば、株価2,000円の株式を100株、年率0.1%で30日間貸し出し、株価と料率が変わらなかったと仮定します。

項目仮定
貸出数量100株
株価2,000円
評価額200,000円
貸株料率年0.1%
貸出期間30日
単純計算の金利約16.43円

 計算は「200,000円×0.1%×30日÷365日」です。ただし、実際には株価が毎日変わり、日次・月次の端数処理も証券会社によって違います。これは仕組みを理解するための概算であり、実際の入金額を保証するものではありません。

② 表示料率は固定金利ではない

 貸株料率は預金の固定金利のように満期まで約束されるとは限りません。証券会社が銘柄ごとに設定し、貸借需要や自社の調達状況などをもとに見直します。今週は高い料率でも、翌週以降に引き下げられたり、金利の対象外になったりする可能性があります。

 そのため、現在の料率を一年間そのまま掛けて「年間で必ずこれだけ受け取れる」と考えるのは適切ではありません。確認画面では、適用開始日、次回見直し、最低料率、対象外銘柄、金利計算に使う株価、端数処理まで見ます。サービスを比較するときも、広告に載る最高料率ではなく、自分の保有銘柄へ実際に適用される料率が基準です。

③ 高金利は高い総合リターンを意味しない

 貸株金利が高い銘柄は魅力的に見えますが、株価下落を埋め合わせる保証はありません。評価額50万円の銘柄を年率1%で一年貸しても、株価と料率が一定なら金利は税引前で約5,000円です。一方、株価が10%下がれば評価損は約5万円となり、金利だけでは補えません。

 また、高い料率は株式を借りたい需要や調達の難しさを反映する場合がありますが、それだけで将来の株価方向を決めつけることはできません。銘柄選びは事業価値・財務・株価水準を先に考え、貸株金利は保有中の付随収入として別枠で評価するのが安全です。決算書の読み方で本業の利益とキャッシュフローを確認してから、貸株による小さな上乗せと切り分けましょう。

④ 金利を受け取れない日もある

 申し込んだ日から直ちに金利が付くとは限りません。証券会社の振替処理を経て貸出状態になった日から計算が始まり、返却処理中の扱いも会社ごとに違います。株主優待や配当を取得するため自動返却された期間は、株式を貸していないので貸株金利も原則として付きません。

 売買を頻繁に行う場合や、権利確定日が多い銘柄では、表示料率に保有評価額を掛けた年間額より実収入が少なくなります。貸株通帳や取引残高報告書で、「何株が、いつからいつまで、何%で貸し出されたか」を月ごとに確かめることが大切です。

【配当・税金編】配当金相当額は配当金ではない

① 貸出したまま権利確定日を通過すると相当額になる

 株式を貸し出したまま配当の権利確定日を迎えると、投資家はその時点の株主ではありません。したがって、発行会社から配当金を直接受け取る権利はなく、証券会社から「配当金相当額」を受け取るのが一般的です。金額が配当金に近くても、支払者と所得区分が異なります。

 証券会社の取扱いでは、発行会社の配当から源泉税相当額を差し引いた額を、配当金相当額として支払う例があります。入金画面だけを見ると通常の税引後配当と似ていますが、税務上は配当所得ではなく雑所得です。名称に「配当金」と入っていても、同じ制度だと思わないことが重要です。

② 税務上は貸株金利も配当金相当額も雑所得

 個人が国内株式の一般的な貸株サービスで受け取る貸株金利と配当金相当額は、証券会社の案内上、原則として総合課税の雑所得です。給与など他の所得と合算して税額を計算し、上場株式の譲渡損失との損益通算や配当控除は利用できません。通常の上場株式配当を申告分離課税にして譲渡損と通算する仕組みとは別です。

税務上の比較通常の上場株式配当貸株中の配当金相当額
所得区分配当所得原則として雑所得
課税方式申告不要・総合課税・申告分離課税から条件に応じ選択総合課税が基本
配当控除総合課税を選ぶなど要件を満たせば対象対象外
上場株式の譲渡損との通算申告分離課税など要件を満たせば可能不可
特定口座内の自動通算条件を満たす配当は可能貸株の雑所得としては不可

 雑所得は特定口座の年間取引報告書だけで納税が完結するとは限りません。貸株通帳、取引残高報告書、年間の入金明細を保存し、他の雑所得と合わせて集計します。必要経費に該当するかどうかは支出の内容と所得との直接的な関係で判断されるため、自己判断で広く差し引かず、税務署や税理士へ確認してください。

③ 「20万円以下なら何もしなくてよい」とは限らない

 給与所得者などで、給与・退職所得以外の所得合計が20万円以下なら、所得税の確定申告が不要となる場合があります。ただし、これはすべての人に共通する非課税枠ではありません。医療費控除など別の理由で確定申告をする場合、他の副収入がある場合、給与の受け取り方が要件と違う場合などは扱いが変わります。

 さらに、所得税の確定申告が不要でも、個人住民税の申告が必要となる場合があります。横浜市も、給与所得以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告をしない場合、市民税・県民税の申告が必要と案内しています。居住する自治体の案内を確認し、「少額だから記録しない」という対応は避けましょう。

④ 配当を実額で受け取る設定にも条件がある

 証券会社によっては、配当の権利確定日前に株式を自動返却し、発行会社から通常の配当金を受け取る設定を用意しています。この場合、返却が間に合い株主名簿に記録されれば配当所得として扱われます。ただし、自動取得に使う配当情報、受付期限、金利の変更、対象外となる事例は各社で異なります。

 配当を重視する人は、「配当金相当額を受け取るコース」なのか、「権利日前に返却して配当金を受け取るコース」なのかを明確に分ける必要があります。高配当株では税務差が積み重なるため、金利だけでなく税引後の受取総額で比較してください。

【株主権利編】優待・議決権・長期保有はどうなるか

① 貸出したままでは株主優待と議決権を取得できない

 株主優待や株主総会の議決権は、会社が定めた基準日に株主名簿へ記載された株主へ与えられます。貸株中は所有権が貸出先へ移っているため、貸出したまま基準日を通過すると、原則としてこれらの権利を取得できません。貸株金利を受け取っていても、会社から見た株主であり続けるわけではありません。

 権利を取りたい場合は、証券会社が定める期限までに貸株から外す必要があります。多くの会社には「優待優先」「株主権利自動取得」などの設定がありますが、名称と対象範囲は統一されていません。配当と優待は自動取得できても、臨時株主総会の議決権や株主提案権までは対象外という場合もあります。

② 自動取得設定にも見落としがある

 自動取得サービスは便利ですが、すべての権利を保証するものではありません。証券会社が外部から受け取る配当・優待情報をもとに処理する場合、新設された優待の反映が間に合わない、臨時の基準日を捕捉できない、総株主通知の日と優待基準日が違うといったケースがあります。

 優待や議決権を重視する銘柄は、発行会社のIRで基準日を確認し、証券口座の設定画面でも返却予定を照合します。権利確定日と権利付き最終日の違いを理解しておくと、返却指示を出すべき締切を間違えにくくなります。

③ 長期保有優待は株主番号の継続が問題になる

 長期保有優待では、「同じ株主番号で複数回の基準日に記載されていること」などを条件にする会社があります。貸株によって一度株主名簿から外れると、株主番号が変わり、実際には売却していなくても継続保有と認められない可能性があります。

 証券会社が長期保有優待に対応した自動返却を提供していても、発行会社ごとの判定を保証するものではありません。マネックス証券も、権利基準日に株主権利を取得しても株主番号が変更され、継続保有条件に該当しない場合があると注意喚起しています。長期保有特典の価値が貸株金利を上回るなら、対象銘柄だけ貸し出さない選択が分かりやすいでしょう。株主優待株と高配当株の考え方も合わせて確認すると、優待価値と現金収入を同じ基準で比べやすくなります。

④ 必要株数だけ貸し出さない方法もある

 複数単元を保有し、優待が100株だけで受け取れる場合、100株を非貸株数量に設定し、残りを貸す方法を用意する証券会社もあります。優待取得と貸株金利を両立できる可能性がありますが、議決権は基準日に自分名義となった株数分に限られます。

 部分貸出に対応しているか、単元未満株を扱えるか、新規買付分が自動で貸し出されるかは各社で異なります。一括設定を申し込んだ後に買い増すと、新しい株数まで自動貸出になる場合があるため、設定後も残高を確認してください。

【口座編】NISA・特定口座・信用口座の扱い

① NISA預りは貸株対象外とする証券会社がある

 貸株とNISAは別の制度です。NISAは口座内の対象商品の売却益・配当等を一定の条件で非課税にする制度ですが、貸株サービスの対象可否は証券会社の取引ルールで決まります。SBI証券は2026年7月時点の国内貸株ルールで、NISA預りを貸株対象外と明記しています。

 したがって、「NISAで買った株を貸せば、貸株金利も非課税になる」とは考えないでください。そもそも貸出対象外の場合があり、課税口座の貸株で受け取る金利は雑所得として扱われます。NISA制度の基本は新NISAの仕組みで確認し、口座区分と貸株契約を混同しないことが大切です。

② 特定口座でも貸株収入が自動申告されるとは限らない

 株式を特定口座で保有していても、貸株金利・配当金相当額が特定口座内の譲渡所得や配当所得になるわけではありません。雑所得は原則として自分で年間額を集計します。「源泉徴収ありの特定口座だから、貸株も申告不要」とは限りません。

 確認に使う書類名も会社によって異なります。貸株通帳、貸株金利支払明細、取引残高報告書など、公式案内が指定する資料を保管しましょう。複数の証券会社を使う場合は、各社の貸株金利と配当金相当額を年単位で合算して考えます。

③ 信用取引口座では別の商品・担保関係が混ざる

 信用取引口座を開設している場合、現物株を委託保証金の代用有価証券として使っていることがあります。通常の貸株へ振り替えると代用評価から外れる会社もあれば、代用有価証券のまま貸し出せる「担保貸株」「信用貸株」といった別サービスを提供する会社もあります。

 これらは分別管理や担保の範囲、貸株金利、株主権利の取得方法が一般の無担保貸株と同じとは限りません。商品名に「貸株」とあっても、契約書の担保条項と破綻時の返還方法を読み分ける必要があります。信用余力を維持したい人は、貸出による保証金率の変化も先に試算してください。

④ 証券会社間の移管には返却が必要

 貸出中の株式を別の証券会社へそのまま移管できないのが一般的です。いったん返却して通常の保護預りへ戻し、移管手続きを進めます。解約・返却・移管のそれぞれに営業日がかかるため、移管先で優待権利を取りたい場合やTOBへ応募したい場合は余裕を持つ必要があります。

 新しい証券会社へ移した後も貸株設定は引き継がれません。移管元での最終金利、配当金相当額の入金予定、移管先での株主権利設定を別々に確認しましょう。

【リスク編】証券会社が破綻したらどうなるか

① 一般的な貸株は分別管理の対象外

 通常の保護預りでは、証券会社は顧客の有価証券を自社の資産と分けて管理します。証券会社が破綻しても、分別管理が適切なら顧客資産は基本的に返還されます。ところが一般的な貸株サービスでは、株式を証券会社へ貸して所有権を移しているため、貸出株式は通常の分別管理の対象外です。

 マネックス証券の公式説明では、無担保の消費貸借契約中に同社が倒産し株式が返還されない場合、顧客は株式の時価相当額を請求する一般債権者になるとしています。これは株価変動リスクとは別の、証券会社に対する信用リスクです。

② 投資者保護基金の上限1,000万円を当てにできない

 日本投資者保護基金は、証券会社が分別管理すべき顧客資産を返還できない場合などに、一人当たり上限1,000万円を補償する制度です。しかし、一般的な貸株契約で証券会社に貸した株式は分別管理の対象外であり、貸株サービスの重要事項では投資者保護基金の補償対象外と明記されています。

 「証券口座にある資産はすべて1,000万円まで守られる」という理解は誤りです。通常預り、信用取引の保証金、担保付き貸株、無担保貸株では法的な位置づけが異なります。申し込み画面の利率だけでなく、「分別管理」「担保」「債務不履行」「投資者保護基金」の記載を契約書で探してください。

③ 貸出先の破綻も間接的なリスクになる

 投資家の直接の契約相手が証券会社であっても、証券会社が株式を再貸出している場合、最終的な貸出先の破綻で損失が生じる可能性があります。証券会社は信用力基準や担保管理を設けますが、リスクが完全にゼロになるわけではありません。

 借り手が返せなかったときに、誰が市場から株式を買い戻すのか、差し入れ担保はあるのか、証券会社が顧客への返還義務をどの範囲で負うのかは基本契約書で決まります。証券会社の格付けや財務だけでなく、貸株契約が無担保か有担保かを見る理由はここにあります。

④ 金利収入と引き換えに負うリスクを数量化する

 貸株の判断では、年間金利を「証券会社へ株式を貸す対価」として評価します。たとえば評価額300万円、想定年率0.1%なら、料率と株価が一年間変わらない単純計算で税引前約3,000円です。そのために300万円相当の株式を分別管理の外へ出すことが、自分にとって見合うかを考えます。

 これは貸株を一律に避けるべきという意味ではありません。料率、貸出期間、証券会社の信用力、担保、優待の有無、税負担を一覧にして、受け取る金額と失う保護を同じ表で比べるということです。少額の金利を確認するために、保有銘柄すべてを自動貸出にする必要はありません。

【売買・権利処理編】分割・TOB・上場廃止ではどうなるか

① 株式分割などは証券会社が権利処理する

 株式分割、株式併合、合併、株式交換、株式移転などが発生すると、借り手が返すべき銘柄や数量も変わります。証券会社は契約と取引ルールに従い、自動返却、数量調整、新銘柄への振替などの処理を行います。利用者が分割分の株式を失う仕組みではありませんが、処理期間中に貸出設定や売却方法が制限される場合があります。

 楽天証券の国内貸株ルールでは、株式分割、合併・交換・移転、株式併合などを自動返却の対象として示す一方、臨時株主総会、会社名称変更、市場変更などは自動返却の対象外としています。この区分は一例であり、他社でも同じとは限りません。コーポレートアクションの通知が来たら、保有数量だけでなく貸株状態も確認してください。

② TOBへ応募するなら早めに貸株を解除する

 TOB(株式公開買付け)は、市場で売却する取引とは手続きが違います。公開買付代理人の口座へ株式を移管する必要がある場合、貸株から通常預りへ戻したうえで移管します。貸株解除が応募期限直前では、返却・移管が間に合わないおそれがあります。

 市場価格がTOB価格に近づいていても、応募条件、買付予定数の上限、決済日、税務、応募しない場合の上場廃止手続きを確認する必要があります。貸株中だからTOBの経済価値を失うわけではありませんが、行動できる期限が短くなる点が実務上のリスクです。

③ 上場廃止・整理銘柄では貸株対象外になることがある

 上場廃止が決まった銘柄、整理銘柄、証券会社が貸出不適当と判断した銘柄は、貸株対象から外される場合があります。サービス停止後は貸株金利も終了します。返却後に市場で売却できる期間が残っているか、株式交換や現金交付が予定されているかを会社開示で確認します。

 貸株金利が突然ゼロになったこと自体を売買シグナルにするのは危険です。制度上の対象外、証券会社の運用判断、貸借需要の減少など複数の理由があり得ます。銘柄の重要事実はTDnetと発行会社IRで確認しましょう。

④ 売却益・損失の計算は通常の現物株と同じ

 貸株サービスを利用しても、株式そのものの取得価額が金利収入の分だけ下がるわけではありません。返却された株式を売却したときの譲渡損益は、通常どおり取得価額と売却価額を基に計算します。貸株金利と配当金相当額は、それとは別の雑所得です。

 つまり、一つの銘柄から「株式の譲渡所得等」「通常の配当所得」「貸株の雑所得」が年度によって生じる可能性があります。税区分を混ぜず、証券会社の年間書類と自分の入金記録を照合してください。

【市場制度編】貸株・空売り・逆日歩の違い

① 個人向け貸株サービスと信用売りは立場が逆

 個人向け貸株サービスでは、自分が保有株を貸す側となり、貸株金利を受け取ります。信用売りでは、投資家が証券会社から株式を借りて売る側となり、貸株料などのコストを負担します。同じ「貸株」という言葉が出ても、誰が貸し手で誰が借り手かを確認しなければなりません。

用語主な当事者お金の向き要点
個人向け貸株サービス現物株を持つ投資家→証券会社投資家が貸株金利を受け取る保有株の活用サービス
信用売りの貸株料証券会社→信用売り投資家信用売り投資家が支払う株式を借りる基本コスト
品貸料(逆日歩)制度信用取引の需給調整売り方が支払い、買い方が受け取る株不足時に入札で決まる追加負担
貸借取引証券金融会社と証券会社資金・株式と料率を授受制度信用取引の決済を支える仕組み

② 逆日歩は自分の貸株金利と連動しない

 制度信用取引で株不足が発生すると、証券金融会社は不足株を入札で調達し、その料率が品貸料、いわゆる逆日歩になります。逆日歩が発生したからといって、個人向け貸株サービスの利用者に同額がそのまま支払われるわけではありません。

 個人が受け取る貸株金利は証券会社との契約で決まり、逆日歩は制度信用取引のルールで決まります。表示単位も年率と一株一日当たりの金額などで異なるため、数字を直接比較しないでください。

③ 「貸した株が空売りされる」ことだけで株価は決まらない

 貸株市場は空売りに必要な株式を供給します。そのため、自分の株式が再貸出され、空売りの受渡しに使われる可能性はあります。しかし、個人一人の貸出が株価をどれだけ動かしたかを特定することは通常できません。株価は業績、評価、現物の売買、先物・オプション、指数取引など幅広い需給で決まります。

 空売りには下落を見込む取引だけでなく、裁定取引や保有ポジションのヘッジもあります。「貸株残高が増えたから必ず下落する」「貸株を止めれば株価が上がる」といった単純な因果関係は置かない方がよいでしょう。

④ 貸株残高と信用売り残は範囲が違う

 市場統計を見るときも定義に注意が必要です。取引所が公表する信用取引残高、日本証券金融が公表する貸借取引の貸株残高、証券会社の一般信用売り、個人向け貸株サービスの残高は集計範囲が一致しません。

 日本取引所グループも、信用取引残高には証券会社が独自調達した制度信用分や一般信用分が含まれる一方、日本証券金融の融資・貸株残高にはそれらが含まれないため、数字が異なると説明しています。需給分析では、資料名、対象市場、基準日、単位をそろえて比較しましょう。

【実践編】貸株を使うか判断する7つの手順

① 目的を一文で決める

 最初に「長期保有株から小さな付随収入を得たい」「配当・優待を確実に取りたい」「議決権を行使したい」など、優先順位を一文で書きます。目的が優待取得なのに全株を金利優先で貸すと、設定と目的が矛盾します。

② 年間金利を保守的に試算する

 現在の料率だけでなく、料率が半分になるケース、権利取得のため一時返却するケースを計算します。評価額×表示年率だけの強気試算ではなく、受取額が数百円・数千円でも手続きとリスクに見合うかを見ます。

③ 配当・優待・議決権の価値を並べる

 配当金相当額の税務差、優待の金銭価値、長期保有特典、議決権を失う影響を整理します。優待を額面どおり評価せず、自分が実際に使う価値で比べることが大切です。

④ 口座と対象銘柄を確認する

 NISA、特定口座、一般口座、信用代用のどこに株式があるかを確認します。貸株非対象銘柄、単元未満株、新規買付分の自動貸出、外国株の別ルールも確認してください。

⑤ 契約上の保護を読む

 分別管理の対象か、担保はあるか、投資者保護基金の対象か、証券会社または再貸出先が破綻した場合にどう返還されるかを読みます。「貸株サービスに関する重要事項」「基本契約書」「リスク説明書」が主な確認資料です。

⑥ 税務記録の保存方法を決める

 貸株金利、配当金相当額、入金日を年単位で集計できるようにします。所得税の申告要否だけでなく、住民税の申告も住所地の自治体へ確認します。税制は改正されるため、毎年同じ処理でよいとは限りません。

⑦ 少数銘柄から設定し、毎月見直す

 最初から全銘柄の自動貸出にせず、優待や重要な議決権がなく、金利とリスクを比較しやすい銘柄だけで確認する方法があります。月に一度、適用料率、貸出数量、権利予定、入金、証券会社からの通知を見直します。

最終チェック確認できたら記録する内容
受取見込み保守的な年間貸株金利
株主権利配当・優待・議決権を取るか
長期保有株主番号の継続条件
税金雑所得の集計と申告確認先
資産保護分別管理・担保・基金の対象可否
実務返却日数、売却、移管、TOB対応
見直し料率と権利予定の確認頻度

まとめ

 貸株は、売却せずに保有株から貸株金利を得られる一方、通常の保護預りとは契約関係が変わるサービスです。受取金利だけでなく、株主としての権利、税金、破綻時の保護まで含めて判断する必要があります。

  • 貸株中は株式の所有権が移り、同種・同量の返還を求める立場になる
  • 貸株金利は「株数×時価×料率÷365日」が基本だが、株価と料率は変動する
  • 配当金相当額は通常の配当金と異なり、原則として雑所得になる
  • 貸出したままでは、株主優待・議決権・長期保有判定を失う可能性がある
  • NISA預りを対象外とする証券会社があり、特定口座でも貸株収入の自動申告とは限らない
  • 一般的な無担保貸株は分別管理と投資者保護基金の対象外で、証券会社の信用リスクを負う
  • 株式分割、TOB、移管、上場廃止では返却に必要な日数を確認する
  • 個人向け貸株金利、信用売りの貸株料、逆日歩は別の仕組みである

 「金利が付くから得」と一方向に考えず、年間で得られる金額と、配当・優待・権利・税制・資産保護の変化を同じ表で比べましょう。利用する場合も、全銘柄を一括設定するのではなく、自分の目的に合う銘柄だけを選び、定期的に契約条件を見直すことが大切です。

よくある質問

Q. 貸株とは何ですか?

 保有する株式を証券会社へ貸し、貸出数量・時価・料率・期間に応じた貸株金利を受け取るサービスです。貸出中は通常の保護預りと異なり、株式の所有権が移るため、株主権利や資産保護の扱いも変わります。

Q. 貸株中の株はいつでも売れますか?

 多くの個人向け貸株サービスでは、貸出中でも通常どおり売却でき、売却時に証券会社が返却処理を行います。ただし、他社移管、TOB応募、株主権利取得のための返却には営業日数が必要なので、利用会社の締切を確認してください。

Q. 貸株中でも配当金と株主優待はもらえますか?

 貸出したままでは通常の配当金ではなく配当金相当額となり、株主優待や議決権は原則取得できません。権利確定日前に自動返却する設定を提供する証券会社もありますが、長期保有判定や臨時の基準日まで保証されるとは限りません。

Q. 貸株金利と配当金相当額は確定申告が必要ですか?

 原則として総合課税の雑所得であり、確定申告が必要となる場合があります。給与所得者で給与以外の所得が20万円以下など一定条件では所得税の申告が不要な場合もありますが、住民税の申告が必要なことがあるため、税務署と住所地の自治体へ確認してください。

Q. 貸株はNISAでも利用できますか?

 証券会社の取引ルールによりますが、NISA預りを貸株対象外とする会社があります。SBI証券は2026年7月時点で国内株式のNISA預りを対象外としており、利用前に自分の証券会社で最新の対象口座を確認する必要があります。

参考リンク(出典)

 制度・税務・各社サービスは変更される可能性があります。以下は2026年7月13日に確認した公式情報です。実際の利用時は、証券会社の最新の基本契約書、取引ルール、重要事項を優先してください。